ゴルフは繊細なスポーツだと、あらためて感じた。静岡・川奈ホテルGC富士で25日まで行われた、国内女子ツアーのフジサンケイ・レディース。第2ラウンド終了後の、高橋彩華(22=東芝)の言葉は印象的だった。

首位と3打差の5位で最終日に臨むことになり、初優勝への思いを問われると「逆にもう考えなくなりました。毎週トップ10でいいやという気持ちに切り替えました。お母さんが『毎週トップ10が目標でいいんじゃない』と言ってくれて、そこから心が軽くなった気がします」と、ほほ笑みながら話していた。

高橋は前週のKKT杯バンテリン・レディースで、最終日を首位からスタートして15位に終わっていた。それだけではない。その2週間前のヤマハ・レディースも、同じく最終日を首位で出て3位。今年8戦のうち7戦は、どこかのラウンド終了時点でトップ10に入っている。初優勝が、ほぼ毎週ちらついていた。フジサンケイ・レディースも結局、7位に終わった。「毎週トップ10」という新たな目標はクリアしたが、それが本当の目標ではない。

「(優勝を)無意識に考えてしまって、自分のプレーが思うようにできなくなってしまったのかな…」。今年だけで何度も近づいては、逃し続けている初優勝。優勝を意識しないために心がけることは「まだ試行錯誤中で…」と、答えは見つかっていない。

今年は好調を持続しているが、大会を通じて成績が右肩上がりで終わったのは、3日間を42位→7位→3位で終えたアクサ・レディースの1試合しかない。技術的には、各大会の優勝選手と遜色ない。今年は稲見萌寧が8戦で4勝しているが、わずかな心の持ちようの差で、それが高橋に替わっていたかもしれない。

初優勝への思いの強さを知る、母真由美さんは重圧を少しでも取り除きたいと「毎週トップ10が目標でいいんじゃない」と、前週の大会後の帰り道に声を掛けた。悩める娘に対し、夢をあきらめろと言っているかのような言葉をかけるのは、身を切るような思いだっただろう。だが変わりたい高橋は、そんな母の心の内も察した上で受け入れ、賛同し「心が軽くなった」という境地に達したように思う。精神面での成長を目指し、試行錯誤が続く。

田辺ひかり(24=伊藤園)も、フジサンケイ・レディースでは内面と戦っていた1人だ。この大会では、普段はコーチとして指導を受ける佐伯三貴が、約1年半ぶりにツアー出場。2位と好発進した第1ラウンド終了後は「すぐにイライラしちゃうので、落ち着いてプレーするよう、昨日メッセージをいただきました」と、佐伯からのアドバイスに感謝した。その日のうちに佐伯から「ナイスプレー。明日も笑顔で頑張ってね」とのメッセージが届き、第2ラウンドは首位と2打差の3位につけ、初優勝を射程にとらえた。

最終日を前に「三貴さんが会場にいるだけで心強いです」と話していた。第2ラウンドのスタートが10分以上遅れた関係で、偶然にも18番でバーディーを取ってホールアウトする佐伯の姿を、最終組の田辺は1番のティーイングエリアから見ていた。「すごく感動しました。私に気付いて手を振ってくれたので、すごくうれしくて、落ち着いて良いショットを打てました」。この日、佐伯は全体2番目の66の好スコア。田辺も第1ラウンドの66に続く69と、師弟ともに伸ばしていた。「笑顔で」のアドバイスも「楽しくラウンドできました。イライラする場面はなかったです」と、ニコニコしながら話していた。

だが最終ラウンドは、笑顔が消えていた。1番パー4のティーショットから「アリソン・バンカー」と呼ばれる、アゴの高いバンカーにつかまった。第2打は出すだけで精いっぱい。辛うじてパーを拾ったが、徐々にスコアを落として迎えた17番パー3で、このバンカーに苦しみダブルボギー。イライラを通り越して、表情は凍り付いていた。後半40と崩れ、13位に終わった。

「今年は優勝したい気持ちが強い」と話していた田辺。「逆にもう考えなくなりました」という高橋。各選手がさまざまな精神状態で挑みながらも、なかなか初優勝の壁を越えられない。一見、ずぶとい神経の持ち主のように振る舞う優勝経験豊富な選手も、本当は違うのだろう。優勝するには繊細な精神、調整、もしくは他の選手を圧倒する繊細な技術が必要なのだと、敗れた選手の葛藤から、強く浮かび上がってきた。

【高田文太】(ニッカンスポーツ・コム/ゴルフコラム「ピッチマーク」)