長年取材していると、似たシーンを何度も目にする。鈍感になる。しかし、とっておきの瞬間はある。

ステップアップツアー・スカイ・レディースABC杯での服部真夕(33=朝日インテック)は感動した。ツアー5勝のプロが、下部ツアーで6年ぶりに勝って泣いた。アプローチができなくなった。ウエッジだからダメなのかとユーティリティーやウッドで試してもダメで、素人が驚くようなミスをする。「もう普通にゴルフができなくなるんじゃないか」-。人生をかけてきたものが壊れてしまう絶望感を“左打ち”という驚くべき手段で打開した。「奇手」ではない。試行錯誤の末にたどり着いた「オリジナル」だ。その執念が実った。

同じ大会でもう1人、長い道のりを感じさせるプロがいた。プロ11年目の仲宗根澄香(29=Sky)。19年大会の優勝が縁で所属契約を結んだ。20-21年シーズンはレギュラーツアーで過去最高の結果を残し、初の賞金シードをほぼ手中にしている。つまり、もう下部ツアーに出る必要性はない。「ディフェンディング王者」で「ホステスプロ」であっても、だ。ところが、彼女は迷わず出た。

「今年のシーズンが始まる前から、強い思いで出場を決めてました。(レギュラーツアーに出て、同ツアーの出場優先順位を上げる)リランキングも大事だけど“この試合の1カ月前から調子を上げて、この試合で優勝したい”という気持ちがありました」。

スポンサーへの恩義もあるが、現実的に自分のゴルフのため、でもあった。

「優勝しか考えてませんでした。ディフェンディングで臨むホステス大会なんて、この先もあるかどうか。だから、自分がどうなるか経験してみたかった」。

結果は5打差3位。最終日は68をマークしたが「5歩以内のバーディーパットが5、6回で1度しか入らなかった」とこぼした。「前半にもう1、2個(バーディーを)取れていたら、真夕さんに追いつけたかも。そう思うと“まだレギュラーツアーでは勝てないな”と」。

10年に千葉・松戸六実高を卒業し、QTを受けて11年にプロ転向した。当時から、大学ノートにプレー内容や反省をパーオン率、パット数などスタッツとともに書き込んできた。「覚えておくように。感情を吐き出してスッキリするために」。丹念に、時に殴り書いたノートは15冊を超えた。

「絶対に他人には見せません。もし火事になったら、そのノートをかき集めて、抱えて逃げます」。親にも見せたことないのか? 「ないです!」。彼氏にも? 「ないです!」。ツアー初優勝の日、何を書き込むのか。ダメ元で何を書いたか、ぜひ聞きたい。

こんなことを書いていると、レギュラーツアーのニッポンハム・レディースでプロ8年目の堀琴音(25=ダイセル)が勝った。ジュニアから注目を集め、14年のプロ転向後も初優勝のチャンスを逃し、18年に賞金シードを落とした。

今年3月のダイキン・オーキッド・レディースはカットラインぎりぎりで約2年ぶりの予選通過を決めた。後日、母貴久恵さんに聞いた話では、第2ラウンド最終ホールで50センチのパットが「手が震えて」なかなか打てなかったそうだ。

どん底を乗り越える。地道な努力が実る。そんな場面に立ち会える。だから取材は役得だ。【加藤裕一】(ニッカンスポーツ・コム/ゴルフコラム「ピッチマーク」)

スカイ・レディースABC杯に出場した仲宗根澄香=2021年7月
スカイ・レディースABC杯に出場した仲宗根澄香=2021年7月