今や大会名物となっているスタートコールは今年も健在だった。女子ゴルフのステップアップツアー、カストロール・レディース(9月1~3日、千葉・富士市原GC)では、大会を主催するBPカストロール株式会社の小石孝之社長(61)が2010年の第1回大会から欠かさず選手紹介のスタートコールを行っている。同社契約プロらへ発するユニークなコールは毎年、選手に笑顔と力を与え、今大会でも多くの選手を激励。レギュラーツアーで選手のキャディーを務めることもあり、ゴルフ界発展に情熱を注ぐ小石社長に、その思いを聞いた。

「続いてのティーオフは-」。大会初日。低く、しっかりとした声が早朝からティーイングエリアに響く。体調不良で昨年のツアーを長く欠場していた契約プロの吉田弓美子(34=アマノ)のスタート時には「今日のウエアはカストロールカラーでコーディネート。しばしの休養を経て、このフェアウエーに戻ってきました。おかえりヨッシー」とアナウンス。カストロールカラーの緑のスカートをはいた吉田は恥ずかしそうに笑うと、少し涙をぬぐいながらクラブを振り、見事にボールをフェアウエーへ運んだ。

スタートコールはアナウンサーが務める場合が多く、出身や所属、経歴などを簡単に紹介する。小石社長のコールでは、契約プロや顔なじみの選手がスタートする際に、アドリブで“もう一声”を追加。まだテレビ中継はおろか、コールすらなかった第1回大会時に「少しでもレギュラーツアーと同じ雰囲気を味わってもらいたい」と自らマイクを握った試みが好評となって継続し、12回目を迎えた。

吉田以外の選手へ向けても、小石社長ならではのコールが多くあった。16年にレギュラーツアーで優勝した契約プロの福嶋浩子(44=フリー)へ向けては「私もあの時、泣きました。レギュラーツアー初優勝から5年。もう1度、あの時の感動、涙を流したい」と激励。最終日には同じく契約プロの倉田珠里亜(28=フリー)へ向け「今年のユピテル・静岡新聞SBS・レディースでは最大6打差からの逆転負け。あの悔しさは忘れない。今日はそのリベンジのチャンス。倍返しだ!」とアナウンス。これには倉田も笑うしかなかった。

大会運営のほか、選手とも04年の佐藤靖子(現在は終了)を皮切りに、今では16人の契約選手を抱える。大会が始まった2010年時のステップアップツアーはまだ5試合のみの開催だった。「選手と契約を始めた時は女子ゴルフの人気がそれほどあったわけではなかった。少ない金額でも応援したいという思いが一番でした」。地道なサポートも実り、徐々に試合数は増加。17年には過去最大となる21試合が開催されるまでになった。

夏場での開催や、プロ選手のみの出場など、大会にはさまざまな思いも反映されている。小石社長は「プロ選手でさえも試合に出られるのはほんの一握り。レッスンなどお金の稼ぎ方はいろいろあるかもしれないですが、プロゴルフトーナメントはプロが稼ぐ場所だと私は思っています。それは今後も変わらない」と力を込める。ステップアップツアー活性化のため、日本女子プロゴルフ協会にレギュラーツアーと同様に、最終戦でのチャンピオンシップ大会の開催を提案したこともあるという。

尽力を続ける小石社長だが、もともとは野球少年で、ゴルフには興味がなかった。クラブを初めて握ったのは37歳の時。上達のきっかけは営業本部長時代に向かった得意先のゴルフコンペだった。「前任者がシングルプレーヤーで、ゴルフがうまかったみたいで。その後任でいって、スコアは120くらい。ラウンドを終えてお風呂に入っていたら『今度の本部長、下手だよな』って声が聞こえてきて。なんだコノヤローと思って。そこから真剣に練習しました」。週末は毎回練習へと向かい、今ではハンディキャップ7のシングルプレーヤーになった。

ステップアップツアー界の“古参”にもなりつつあるカストロール・レディース。まだまだ小石社長の情熱は尽きない。「来年以降も開催する方向で動いています。できるところまでやりましょうかね」。ゴルフ界の発展を願う名物コールも、まだまだ聞くことができそうだ。【松尾幸之介】(ニッカンスポーツ・コム/ゴルフコラム「ピッチマーク」)

スタートコールを行うBPカストロールの小石社長(撮影・松尾幸之介)
スタートコールを行うBPカストロールの小石社長(撮影・松尾幸之介)