ほけんの窓口レディースで渡辺彩香が優勝した。15メートルのパットを決めてプレーオフを制したこと、柔道家の夫・小林悠輔とのエピソードが注目された。自分もそのテーマで原稿を書いたが、書き足りなかったことがある。「もうベテランって見られてる」と苦笑いする28歳のたくましさだ。

首位で迎えた最終日、4バーディーを奪った序盤5ホールはすごかった。1、4番両パー5の2オン狙い、フロントエッジまで271ヤードの5番パー4での1オン狙いも圧巻だったが、一番驚いたのは2番パー4だった。

ピン位置はフロントエッジから35ヤード、左エッジから7ヤード。典型的なフェードヒッターの渡辺には最もやっかいなアングルだ。ショートサイドのグリーン左はぐっと落ち込み、バンカーもある。持ち球がフェード、ドローに関係なく最悪右サイドにこぼす“保険”をかけたセンター狙い、それも奥にこぼすと最悪だから手前からが定石。後続に3打差つけていたし、なおさら無理はしないと思った。

ところが、ピン筋を狙い、奥まで突っ込んだ。ティーイングエリア右端から対角線のアングルで7番アイアンを手にグリーン左最奥のピン左、狭いエリアの2・5メートルにつけた。そこもすごいが、何より「無謀」なほどのアグレッシブさにシビれた。

「先週(のサロンパスカップで)予選落ちして、(専属キャディー、マネジャー、トレーナー、コーチ、メンタルコーチによる)チーム内で“ちょっとビビってんじゃね?”という話になって。OBしてもバーディー2個取ればいいだけのことだし、元々自分は“どうなるかわからない選手”だし…」

ツアー屈指のロングヒッターはスケールが大きいが、粗さもある。イーグルもあれば、平気でOB、ダブルボギーも打つ。実際、7番まで完璧なゴルフを続けながら、8番のドライバーショットでOB、ダブルボギーをたたき、10、15、17番でボギーと乱れた。

それでも、11、16番でバウンスバックして、ぎりぎりの線で踏みとどまれたのは、自分のスタイルを自覚した上で「勝っても負けても1つの後悔もないプレーをする」と腹をくくった潔さがあったからだろう。

14年にツアー初優勝、15年に2勝して賞金ランク6位と順風満帆だったツアー人生が「ドローも打ちたい」との思いでスイング改造に踏み切ったことで一転。フェードヒッターには最悪の左へのミスが増え、18、19年はシード落ちした。20年アース・モンダミンカップでの復活Vまで辛酸をなめた日々が、今の強さにつながっていると思う。

渡辺は今「日本ツアーで戦っているのだから、日本で1番になりたい」という。賞金女王、年間最優秀選手を決めるメルセデスポイント・ランク1位が最優先ターゲット。ただ、同時に世界基準も頭にある。

今回の優勝で世界ランクは106位から90位に上昇した。19年10月21日付で396位まで落ち込んだものが、17年7月31日付の98位以来4年10カ月ぶりの2桁順位に戻った。

「昔は(世界ランクは)頭になかったですね。今? あります。メジャーに出たいので。50位に入ってたら、だいたい大丈夫でしょうから」

過去最高は16年5月23日付の42位。黄金世代など若手の台頭に、彼女たちが未経験の“時間”という鍛錬で培ったたくましさを持ち、立ち向かっていく。【加藤裕一】(ニッカンスポーツ・コム/ゴルフコラム「ピッチマーク」)