ゴルフの聖地・セントアンドルーズで行われた全英オープン会場に、日本ではお目にかかれないスゴ腕の“警備員”がいた。

会場に英国名物のフィッシュ&チップスを始め、屋台がずらりと並ぶ屋外飲食スペースが数カ所ある。空腹で吸い込まれるように立ち寄ると、こちらに向けられた鋭い視線を感じた。ワシだった。男性係員の腕に止まり、周囲をキョロキョロと見回していた。

全英オープンの会場で、カモメがギャラリーの食べ物を狙わないよう警戒するワシのファーンリ(右)(撮影・近藤由美子)
全英オープンの会場で、カモメがギャラリーの食べ物を狙わないよう警戒するワシのファーンリ(右)(撮影・近藤由美子)

ワシはカモメ対策要員だった。コースは海沿い。カモメが常にあちこちで飛んでいる。飲食スペース上空にも多数飛んでいて、常にギャラリーの食べ物を狙っている。ワシはカモメを寄せつけないように、にらみを利かせるために配備されていた。

係員によると、ワシの名前はファーンリ。20歳のオスで、係員は「中年のオジサン、じゃなくてベテランだよ(笑い)」と説明してくれた。ファーンリの全英オープンデビューは、セントアンドルーズで行われた前回大会の15年。16年ロイヤルトゥルーン、18年カーヌスティに続き、大会会場警備は4回目。15年からスコットランドで行われる大会では毎大会携わっているようだ。全英オープン初取材の記者にとっては、ワシとはいえ大先輩にあたる。

練習日から会場に入っており、警備は午前9時~午後5時まで。ランチタイムは生の鶏肉を食べて、仕事に励んでいるという。サラリーマン並みの勤務に感心すると、係員は「それが彼の仕事だから」とこともなげだった。

ファーンリは大人気。老若男女が入れ代わり立ち代わり寄ってきて、スマートフォンでパシャパシャと写真を撮っていた。その後はドイツのテレビ局の取材も受け、テレビカメラをずっと向けられていた。撮られ慣れているのか、警戒の手を緩めることなく、周囲を警戒し続けていた。

会場にカモメ対策で、ワシ1羽、タカ2羽、フクロウ1羽が配置されているという。前日、フクロウを連れた男性とすれ違った。フクロウを連れて散歩なんて自由だな、と漠然と思った自分が恥ずかしい。ワシやフクロウが全英オープンで何度も仕事をし、特殊任務を請け負っていたとは考えもつかなかった。会場警備の面からも伝統を感じた。

神奈川・湘南海岸のトンビ問題を思い出した。海沿いでトンビがコロッケやたい焼き、アイスクリームなど食べ物を行き交う人々から略奪する事件が多発している。湘南も全英オープンのファーンリのような特別警備員を配備できたら。ゴルフの聖地の伝統を取り込めないかと思わず考えた。【近藤由美子】

全英オープンが行われるセントアンドルーズ・オールドコース(2015年7月撮影)
全英オープンが行われるセントアンドルーズ・オールドコース(2015年7月撮影)