プレーバック日刊スポーツ! 過去の12月1日付紙面を振り返ります。2008年の最終面(東京版)は、「古閑美保 奇跡の賞金女王」でした。

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<女子ゴルフ:LPGAツアー選手権リコー杯>◇最終日◇11月30日◇宮崎・宮崎CC(6442ヤード、パー72)◇賞金総額1億円

 古閑美保(26=キリンビバレッジ)が「奇跡の賞金女王」になった。通算6アンダーで競技を終えた時は2位。ところが同8アンダーの首位全美貞(26)が17番でボギー、18番でダブルボギーと大失速。さらに全と同組で古閑と並んでいた不動裕理(32)が18番で1メートルから3パット…。賞金1位の李知姫(29)は10位に沈み、逆転優勝と女王戴冠が決定した。「世紀の大どんでん返し」に、古閑本人も思わず「ウッソ~ッ!」。ツアー最終戦最終日に“筋書きのないドラマ”が待っていた。

 最終18番グリーンから2度、観客のどよめきがわき起こった。古閑の全身に震えが走る。「えっ!? ウッソー!?」。何が起こったのか―。両手で顔を覆い、しゃがみこんだ。2組後ろの不動と全の結果を見るのが怖くて、クラブハウス前にいた。

 古閑 ちょっと、あの~…。人生で初めてというくらい、興奮しました。想像してなかったので…。

 「世紀の大どんでん返し」だ。賞金ランク3位だった古閑の逆転賞金女王条件は「優勝して、賞金1位李が9位以下」だった。自分と2組前の李は10位。あとは優勝だけ。しかし、ホールアウト時は首位全と2打差の2位。それなのに…。あり得ない事が起こった。

 古閑は14番で8メートルを沈めて連続バーディーを奪い、通算4アンダー。15番でリーダーボードを見た。全は7アンダー。「今日は優勝に届かないか」。全は14番もバーディーを奪い、差は4打に開く。17、18番の連続バーディーで食い下がるが、結局6アンダーでホールアウトしていた。

 そこから奇跡が始まった。17番で全がボギー。不動はバーディー。その時点で古閑は全に1打リードされ、不動と並ぶ2位タイ。そして「運命の18番パー4」が訪れた。

 全が崩れた。第2打をバンカーに打ち込むと第3打はグリーンオーバー。ダブルボギーで5アンダーとなり、古閑の下に落ちた

 全 なんか、運がなかった。

 不動も崩れた。第2打はピン左1メートル、絶好のバーディーチャンスにつけた。しかし、「入れば勝ち」の1メートルに、元6年連続女王の心は揺れた。下りのスライスラインを読み切れず、1メートルオーバー。「入ればプレーオフ」のパーパットもカップに蹴られた。誰もが目を疑う「1メートルから3パット」。目前で崩れていく全の姿が頭にあった。

 不動 自分がやっているようで。ドキドキしてしまった。

 昨年も古閑に5打差を逆転され、優勝を逃した。「去年に引き続きですね」。自嘲(じちょう)気味に笑った。

 10位に終わった李は、ボギーをたたいた18番がパーなら、韓国人初の賞金女王になっていた。ショックで会見を拒否。「私が最後まで良いプレーを出来なくて女王になれなかったので。しょうがない」とコメントを残しコースを去った。

 古閑 こんなこと経験ないので。びっくりですよね。運がいいとしか言いようがない。

 日本女子ツアーのシーズン最終戦最終日。女子ゴルフ界の人気者は後半にスコアを4つも伸ばす68をマーク。実力に、強運のアシストを受け、李をわずか120万円差で逆転。奇跡のドラマの主役となった。

 ◆10月に脳梗塞で倒れた古閑の父宏二郎さんは、後遺症がある右足を引きずりながら、4日間観戦。優勝で女王が決まると「美保っ!」とさけびながら抱きついた。古閑は「何ででてくるのよ」と苦笑い。4月26日から46日間かけて四国八十八カ所巡礼に出掛けて、娘の賞金女王を祈願していた宏二郎さんは「行った甲斐がありました。神懸かり的でしたからこのコースには美保の神様がいる」と感無量だった。

【女子賞金ランクトップ5】

(1)古閑 美保 1億2085万4137

(2)李  知姫 1億1965万2786

(3)横峯さくら 1億0319万2169

(4)福嶋 晃子   9650万0696

(5)不動 裕理   9185万7367