熊本出身の重永亜斗夢(29=ホームテック)が、石川遼(26=CASIO)片山晋呉(45=イーグルポイントGC)との優勝争いを制し、ツアー初優勝を飾った。14アンダー単独首位から発進し、2バーディー、2ボギー、1ダブルボギーの通算12アンダー272。最後は、2位石川に1打差で競り勝った。震災から2年を迎えた地元熊本を勇気づける最高の優勝になった。

 約20センチの優勝パットを打つ前、重永はツアー31勝の片山から声を掛けられた。「ゆっくりマークして、ゆっくりかみしめて打て」。08年にデビューしてから10年。18番ホールで、勝利を決めるパットを沈めると、高々と両手を上げた。

 「最後のウイニングパットは、これで人生が変わるとしみじみ思いながら入れた。遼と晋呉さんに勝って優勝ですよ。これで、死ぬまで自慢できます。早くいろんな人に自慢したいです」と、普段はおとなしい重永が、冗舌に語った。

 石川、片山というビッグネームとの最終日最終組。スタート1番でバーディーを取ったが6番は池に入れてダブルボギー。7番、9番もボギーを打ち、石川との差は1打差に詰まった。弱気でビビリの性格で大会前半は弱音ばかり吐いていたが、この日は違った。「ミスしても腐らないで笑っていこう」と言い聞かせ、最後まで自分のゴルフを貫いた。それが、終盤17番でのバーディーにつながった。「今日は気持ち勝ちでした」と振り返った。

 優勝が決まったグリーン上で、急きょ熊本市から駆けつけた和歌子夫人(28)を抱き締めた。熊本地震が起きた2年前は遠征中で、交通機関のまひにより3週間、自宅に帰ることができなかった。当時、電話で夫人に励まされた。「グリーンであれがしたかったんです。あれが夢だった」と照れながら話した。

 大会前には戦国武将の加藤清正公を祭った加藤神社に願掛けのお参りをしてきた。すぐ近くの熊本城を見上げ、震災からの復興半ばを実感した。「僕の優勝が少しでも熊本を元気づけられたら。やっぱり風化していくので、そういう時期に勝てて、いろんな意味で心に残る試合になった」。重永の人生にとっても、復興を目指す熊本にとっても価値ある優勝となった。【桝田朗】

 ◆重永亜斗夢(しげなが・あとむ)1988年(昭63)9月14日生まれ、熊本・菊陽町出身。9歳でゴルフを始めた。日大1年で中退し、08年にプロ転向。過去最高は15年KBCオーガスタの3位。172センチ、60キロ。名前の由来は「アジアで北斗星のように輝く夢を持て」という気持ちを込め命名された。