ツアールーキーで無名の存在だった渋野日向子(21)は、春から初夏にかけて国内で結果を出しつつあった。6月末のアース・モンダミンカップで4位に入ると賞金ランク5位浮上。大逆転で5位以内に与えられるAIG全英女子オープンの出場権を得た。日刊スポーツでは「しぶこの足跡」と題し、31日大みそかまでの7回、WEB連載で今季の戦いを再掲載します(毎日正午掲載予定)。第3回は、日本男女42年ぶりのメジャー優勝の快挙を達成した全英女子オープンです。

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これは夢か、現実か。日本から約9500キロ。ロンドンの北西にある会場で、歓喜の瞬間が訪れた。

男女を通じ日本勢42年ぶりのメジャー優勝が決まっても、渋野に涙はない。あったのは、いつもの“シンデレラスマイル”だった。

残り3ホールで、L・サラス(米国)と通算17アンダーの首位で並び、事実上の一騎打ちになった。最終18番パー4。渋野がバーディーを奪えば、優勝が決まる。舞台は整った。第1打はフェアウエーに置いた。第2打はピン横5メートルへ。長いバーディーパットを沈めると、持っていたパターを天へ突き上げて喜んだ。日本から来た無名の「スマイリングシンデレラ」が、ついに世界の頂点まで上り詰めた。

世界のメディアが集まった優勝会見。いつもの渋野節がさく裂した。

「何で勝っちゃったんだ。いらんことをしてしまった。プレーオフはしたくないから(18番で)ロングパットになったら『わざと3パットします』とキャディーさん(青木コーチ)に言ったら『この野郎!』と言われちゃった」

だが、来年の東京五輪への思いを問われると真剣になった。

「この優勝でどれくらい(世界ランクが)上がるのか分からないけど、この順位だけで東京五輪は絶対に決まらない。まだ何カ月もある。気を緩めず、頑張るしかないと思っています」

国内ツアーですら実績のなかった18年末は、世界ランク563位だった。この半年でプロ初勝利を含む国内2勝を挙げ、500人以上をごぼう抜き。全英前は9位畑岡奈紗、26位鈴木愛、43位比嘉真美子に続く日本人4番手の同46位だった。史上初となる米ツアー初出場初優勝のメジャー制覇で、五輪出場圏内となる日本人2位の14位にまで急浮上。夢にまで見た東京五輪を手中にした。

五輪イヤーとなる20年の米ツアーのシード権と、全英女子OPは10年、全米女子OPは5年の出場権まで獲得した。昨年は観客がまばらな国内下部ツアーが主戦場だったからか。まだ夢見心地なのだろうか。すぐに実感が湧くはずもなく、米ツアーへの出場意欲を問われると「全くないです」と即答し、こう続けた。

「移動もだし、英語も話せない。絶対にストレスになるし、日本で成長して活躍したいです。(全英は)来年も出ないといけないですよね? 出ないといけないなら、それなら出ます。日本が大好きなんです」

あくまでも国内ツアーから、東京五輪に挑む考え。多くのプロが憧れる米ツアーには興味すら抱かないところもまた、天真らんまんな「しぶこ」らしい。

無名のツアールーキーが、一気に世界の頂点まで駆け抜けた。それは、まさにシンデレラストーリーだった。

その物語は、全英優勝後も賞金女王争いまで続くことになる。