ティーオフを前にした選手紹介のアナウンスがあっても拍手はない。ピンをダイレクトに狙った勇気あるショットに歓声もない。ゴルフの無観客試合、この景色はすでに2012年のコカ・コーラ東海クラシック最終日で経験していた。今季、女子ゴルフは新型コロナウイルスの感染拡大を防止するため開幕するめどすらたっていない。開幕してもギャラリーなしの可能性がある。「シュルシュル」と空気を切り裂くボールの音だけが耳に残った大会から渾身(こんしん)の1枚です。

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ティーグラウンドを囲むスタンド席にギャラリーはいない。プロアマ戦から5日間取材してきたのにフェアウエーが広々としてつかみどころなく感じた。12年9月30日、コカ・コーラ東海クラシック最終日は大型の台風17号が接近していたため無観客で開催された。ギャラリーの安全を優先させたもので日本ゴルフツアー機構初の決定だった。

大会中止に備えていつもより早めにゴルフ場に到着。ほぼ続行は無理だろうと高をくくっていたところ、主催者側から無観客で行うと発表。プレスルームが急にざわついたのを覚えている。通常でさえカメラマンは選手の妨げにならないようシャッター音には気を使う。その日の取材がスタートすると、想像以上にシャッター音が響きわたった。ギャラリーがいないとカメラマンの存在が目立ち緊張感が高まった。ギャラリーロープ近くを歩くルールを徹底し移動中の私語もなくして18ホールを回った。撮影中は「誰が優勝するかということよりも、この異常事態を写真でどう表そうか」とばかり考えていた。無人のスタンドを入れて選手のティーショットを撮る。コースの高いところからほぼ無人の全景を狙った。互いに写真の構想が固まってくると単独行動になる。今思うとカメラマンは自然とソーシャル・ディスタンスを守っていたのだった。

今季の女子ゴルフ開幕戦、ダイキン・オーキッド・レディースを取材するため、プロ野球の春季キャンプが終わっても沖縄に居座っていた。2月の半ばごろから新型コロナウイルスが猛威を振るい始め、1度は無観客で試合を開催しようとしていた。これは(運を)持っているのか、いないのか、いずれにせよまたあの息苦しい取材が繰り返されるのかとゲンナリ。結局試合は中止に追い込まれてしまった。

今季、男女とも開幕する日がきっと来る。最終日の18番ホール、勝利を決定づけるショットを放ちグリーンへと続く花道を帽子に手をやりながら照れるように軽く会釈する選手、その選手を圧倒的な歓声で迎えるギャラリー。もう1度あの光景が早期によみがえることを切に願っている。そしてウイニングパットを沈めバンザイする優勝者を撮影するのは私でありたいとひそかに思っている。