国内ツアー通算64勝、数々の名勝負を演じたゴルフ界の“レジェンド”中嶋常幸プロ(65)による「ゴルフ流 Education」。ジュニア育成を目的とする「トミー・アカデミー」を主宰した経験も踏まえ、子育て世代、指導者へメッセージを送ります。

   ◇   ◇   ◇

ジュニア世代にものを教える場合、何を教えるかも大切ですが、いつ教えるかも重要でしょう。ゴルフの指導でも、何から何まで100の言葉を伝えても、すべてが頭や心に入っていくわけではありません。その子を見ていて、ベストなタイミングなら、効果的な1つの言葉で十分なことがあります。

私生活で例えると、パーティーに行く準備をしていて、鏡の前で服装選びに迷っていたとします。そこで後ろから「バスで行くの? 電車で行くの?」と声をかけられたら、「自分は服装で悩んでいるのに、今その質問?」って、気が散ったりしますよね。子どもも同じです。今相手が何を考えているのか、迷っているのか、悩んでいるのかを見極めて、そのタイミングに合った言葉をかけないと、うまく響きません。

上半身ばかり気にしているなら「シャツとジャケットの組み合わせに迷っているのかな?」とか、足元を見ていたら「靴選びかな?」とか推察して、「こっちの方がいいんじゃない? その方が場が明るくなると思うよ」など、大人としての助言をしたいものです。そのためにはその子をよく見て、観察することが大切でしょう。

同時に最初から「これを着なさい」と、すべて大人がコーディネートした服装を押しつけるのは、お勧めできません。それでは本人が何も考えずに終わってしまいがちです。ある意味で、子どもには迷うことも、悩むことも必要だと思いますね。迷ったり悩むことは、考えたり想像力を働かせることにもつながる。本人が育つための大きな材料でもあると、思うからです。いつまでも大人が何でも教えていたら、子どもは親離れできません。(中嶋常幸)

◆中嶋常幸(なかじま・つねゆき)1954年(昭29)10月20日、群馬県生まれ。父巌氏の英才教育で腕を磨き、73年日本アマで最年少優勝。75年プロ入り。翌年初勝利を挙げ、13年スターツシニアまで国内ツアー通算64勝、レギュラーツアー賞金王4回。青木功、尾崎将司とともに「AON時代」をつくる。88年全米プロ3位など、米メジャー4大会すべてでトップ10入りした初の日本選手、史上初の日本タイトル7冠達成。19年1月日本プロゴルフ殿堂入り。12年から「トミー・アカデミー」を主宰。静ヒルズCC所属。