1年前のAIG全英女子オープンで渋野日向子のメジャー制覇を実況したのが、テレビ朝日の野上慎平アナウンサー(35)。今回(20日開幕、英国ロイヤルトルーンGC)も第3日、最終日の中継を担当し、連覇がかかる渋野の戦いを伝える。くしくも同じ岡山県出身。「でーれー(すごく)応援しとるけーなー」と愛着ある故郷の言葉でエールを送った。

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野上アナは日本人42年ぶり2人目のメジャー優勝の瞬間を伝えた。最終18番、下り5メートルのスライスライン。決めれば優勝、外せばプレーオフへ突入する。この難しい局面でウイニングパットが決まった。

「決まってくれたら最高だなと思いつつも、やはり実況者として、プレーオフにもつれた時の想定もしていました。メジャー昇格後の全英女子ではプレーオフになったことが1度もなくて、『歴史的なプレーオフに渋野が挑みます』っていうコメントを頭に浮かべていたら、入っちゃった。だから入った瞬間『勝った!』ではなく、『バーディーだ!』『歴史的バーディーフィニッシュ!』という言葉が、最初に出てきたんです」

完全に意表を突かれ、驚いた。だから勝利の喜びは後からジワジワきた。長年ゴルフ中継を行う同局にとっても、初めての日本人メジャー優勝の放送だった。

「中継班としても悲願でした。みんなが見たかったシーンだったので。やっと来た!って感じです」

07年にテレビ朝日へ入社し、ゴルフ実況は10年以上。だが、こんな選手は見たことがなかった。ラウンド中にお菓子をほおばり、ファンとハイタッチ、サインにも応じる。アウェーでなく会場をホームに変えた。

「やっぱり怖いものがなかったというか。どんな場面でも笑顔を絶やさなかったのは、すごく印象に残っています。海外の方がフランクな選手が多かったり、そんな印象は若干あるんですけど。それでもあれくらいファンを味方につける選手はいない。日を追うごとに渋野ファンが増えた」

くしくも同じ岡山出身。通っていた岡山城東高の近くが渋野の地元だという。

「勝手に親近感を持っていました。公私混同かもしれませんが、どこかで『岡山県出身の渋野』と言ってやろうと、中継が終わる最後のまとめで『岡山県出身の20歳、渋野日向子が』って。そしたら兄からメールがきて『無理やり入れたな』って。文脈と関係ないところでいきなり『岡山県出身』ですから(笑い)」

前週のスコットランド・オープンでは通算14オーバーという大たたきで予選落ち。日本人選手になじみの薄いリンクスコースの難しさも味わった。不安を残しての本番となるが、渋野への期待は変わらない。

「気持ちをすぐ切り替えられるのが彼女の強み。ゾーンに入ったら止められない強さがあります。窮地に立たされてもまだ頑張れるんじゃないか、と。そう信じたい気持ちにさせてくれるプレーヤーです」

実況者として、渋野には自分の思うがまま、あるがままのプレーで臨んでほしいと願っている。そこで自然体の岡山弁でのエールを求めると、こう言葉をつないだ。

「でーれー応援しとるけーなー」

コロナ禍で現地入りはできない今回、日本から落ち着いた語り口で、渋野の背中を押し続ける。【佐藤隆志】

◆野上慎平(のがみ・しんぺい)岡山県和気郡生まれ。岡山城東高-早大。07年にテレビ朝日入社。趣味はゴルフと料理。プロレス実況でも有名。現在は羽鳥慎一モーニングショーに出演。