「中間世代」は「黄金世代」などの突き上げで強くなる-。女子プロゴルファー永峰咲希(25=ニトリ)が、日刊スポーツの電話インタビューでプロ8年目にかける心境を語った。昨年9月の国内メジャー・日本女子プロ選手権で約2年5カ月ぶりのツアー2勝目を飾ったが、その背景には急激な世代交代への危機感があった。河本結、松山英樹らとコーチ契約を結ぶ目沢秀憲氏(29)にスイングをチェックしてもらうなど懸命にオフを過ごしている。【取材・構成=加藤裕一】
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-永峰プロは95年度生まれの「中間世代」。98年度生まれの黄金、00年度生まれのミレニアム世代などをどう見ているのか?
永峰 知識が豊富ですね。その裏付けがあって、本当にうまい。ボールコントロールとか、私が今一生懸命やっていることが彼女たちには当たり前です。
-そんな年齢差はないが。
永峰 私たちは「持論」が強い時代に育った。まず人それぞれのスイングがあって、そこからどうするか。今のいろんな「正しいとされる理論」を知らなかったし、知ろうともしなかった。でも、今の子はジュニアから「世界の知識」に触れてきた。ナショナルチームにはガレス・ジョーンズさんが来て、日本のコーチも勉強したと思う。彼らの「知識」を当然のように吸収して、クラブの特徴や打ち方も理屈で知っている。すごく物知りですよ。
-プレーを見てわかる?
永峰 話を聞いてです。例えば(黄金の1学年下、99年生まれの)稲見萌寧ちゃんとテレビの仕事で一緒になって「そんなこと考えてんだ」とビックリした。左足上がりのライで、私はロブショットを打った。萌寧ちゃんは土手に1回落とし、転がした。2人ともピンに寄ったけど、真逆(まぎゃく)の寄せ方です。彼女は「自分のウエッジのバンスがロブに向いてないからできないんですよ。ホントはやりたいけど」とか言うから「バンスを見て、ロブできるとかできないとか判断するんだ。すごいな」と驚いた。もう会話のレベルが違う。
-先を行っている感じ?
永峰 私はフェースを開いて打つ方が好きだから、それに合わせてバンスを削ったりしてますけど、彼女は自分のクラブとライを考えて、適した打ち方を選んで、しかも寄せる。私は3年前、そんなの考えたことなかったですよ(笑)。
-プロは約1年前に知人の紹介で目沢コーチと会って、スイングの助言を受けたとか。師匠は池田兼武氏で、他の人から指導を受けることはなかったはず。
永峰 私の先生は、どこまでいっても池田先生です。
-下の世代に触発された?
永峰 ありますね。最初、若い子(の活躍)はたまたまって思ったけど、話を聞いて「こりゃ違うな」と。ちゃんと確信やデータがある。本当にうまい。「私も何か動かないと」と感じました。彼女たちが上がって来て、賞金シード選手の平均年齢がガクッと落ちた。もう現状維持じゃダメになって、今の知識だけじゃどうにもならない。新しい知識を、という感覚はすごくあった。「このままじゃ確実に抜かれる」と私たちより上の世代はみんな感じてると思います。
-プロ個人でなく、中間世代の意識も変わった?
永峰 シーズン中もトレーニングをしっかりやるようになった。一昨年ぐらいから新海美優ちゃん、木村彩子ちゃん、安田彩乃ちゃん、金沢志奈ちゃんとかも。
-きっかけは?
永峰 私はフジサンケイレディースで初優勝した18年の終盤、大王製紙エリエールあたりはもうヘロヘロで、何もないところでつまずいたりして。当時もトレーニングはしていたけど、月イチとか、空き週ぐらい。「これは良くない」と、19年から毎週必ず月曜か火曜日にトレーニングを入れるようにした。どんなに疲れていても、試合で少し筋肉痛が出るくらいまでやる。その年の成績は全然だったけど、体調は最後まで良かった。元気だから気持ちが前向きだった。賞金シードを(45位で)守れたのも、そのおかげと思います。
-現在はどんなオフを?
永峰 まずはドライバー(1W)です。(用具契約先テーラーメイドから)発表されたSIM2(MAX)を試しつつの練習。「右がダメな時」「左がダメな時」のアドレスの取り方、昨年から取り組んでいる点をコースで試しています。新しい1Wはつかまりが良く、簡単。ボールコントロールが昨年より良くなる、と期待しています。
-固めていくのは目沢氏から学んだ部分か?
永峰 1月に目沢さんが(永峰の実家がある)宮崎に来てたんです。(河本)結ちゃん(有村)智恵さんの合宿があって、そこに参加させてもらいました。例えば「つま先上がりで左ピンで右から風来ていて」とかいう状況の時はこうして、ああして…。足し算と引き算みたいな。で、最終的にどういう球を打つのか。基本は「右を消す動き」と「左を消す動き」の2パターン。昨年までの単純にドローを打って「今日はつかまらない1日だな」という感じはなくなりそうです。
-ざっくり言うと「左はダメ」はフェードで「右はダメ」はドロー?
永峰 「左がダメ」のスタンスを取るときは「プッシュフェード」のような感じ。ボールを左に置いて、オープンに構えて、フェースも開いて。でも、テークバックでカットに上げず、そのアドレスでいつもと同じところに上げる。すると芯に当たって真っすぐ出て、最後に右に行く球になる。
「右がダメ」はフェースを落下地点に向けて、スタンスはちょっと右に向く。少しハンドレート気味になって、そのまま打てばつかまって、ドローになる。
後は風にぶつけるのか、風に乗せるのか。それでまた距離も変わる。ドライバーはいいけど、アイアンは番手が変わる。ライ、傾斜もある。そのへんが難しいけど、1つの距離を打つにしても選択肢が増える。練習、実践を通して、身につけていきたいです。
-昨年は日本女子プロ選手権で優勝した。国内メジャーのタイトルを手にした。
永峰 目沢さんにアドバイスをもらったことは、自分の中でかなり思い切った行動でした。不安じゃないけど、結果につながるのかとの思いがあった。ツアーが始まって、少しずつ手応えが出てきて、ポッと勝てた。やりたいことをこなしていったら、たまたま選手権でピークが来て、運もあった。「やってきたことに間違いはなかった」という部分でうれしかったです。ただ、結果が出るのは思った以上に、本当に早かった。「まさか」でした。
-逆にその後は? 9試合でトップ10なし。
永峰 本当にそうですね。間違いない。歯がゆい部分は多かったです。でも、新たな取り組みにしっくり来ない部分も多かったから、ボロが出た感じはある。新しい知識はあっても、不調になった時に戻す能力がまだなかった。ビックリする球が出て、クラブが振れなくなったりしました。
-今年は新しい永峰咲希を出せそうか?
永峰 昨年まではドロー1本でした。やっぱり、フェードしか出ないアドレスっていうのは武器だと思う。そこは未完成ですが、左が絶対に嫌なときに怖がらずに(左に)打てたら、コースをめちゃくちゃ広く使えるようになりますからね。
◆永峰咲希(ながみね・さき)1995年(平7)4月28日、宮崎市生まれ。ゴルフは11歳から。宮崎日大高の3年間、ナショナルチーム入り。12年日本女子オープンでベストアマ。14年プロテスト合格、15年に賞金シードを奪取し、5シーズン連続保持。18年フジサンケイレディースでツアー初優勝。昨年の日本女子プロ選手権で2勝目。20-21年賞金ランクは現在6位。師匠は池田兼武。158センチ、58キロ。