男子ゴルフの全米プロ選手権はミケルソン(50=米国)の50歳以上では史上初となる優勝で幕を閉じた。

同大会では、これまでほとんどのトップレベルの大会で禁止されていた距離測定器の使用が認められ、ミケルソンをはじめ、松山英樹ら多くの選手、そしてキャディーが活用している姿が見られた。

距離測定器はここ10年ほどで急速に普及してきたハイテク機器で、基本的には片目で望遠鏡のようにのぞいて使用する。近年はGPS機能を使って現在地を把握できたり、腕時計型のものもあるが、多くのプロが使用しているのは望遠鏡のようにして使うレーザータイプ。これを使えば自分のいる場所からボールなどがある地点へレーザーを当て、2点間の距離を正確に測ることが可能となる。

コースでは打ち上げや打ち下ろしなど高低差がある場合があり、機器によっては単純な距離数値だけではわからない距離感や風速まで教えてくれるが、全米プロ選手権をはじめ、多くの大会では高低差や風速を把握することは禁止。許されているのは2点間の距離計測と、機器をコンパスのように使う方位把握のみとなっている。

ルール面でみると、距離測定器は06年のルール改正で大会のローカルルールで認められる場合に限って使用できるようになり、19年の改正でプレーの時短などを期待し、ついにその使用が許可されるようになった。これまでは主にアマチュア競技での使用は認められていたが、米国ではついに今年の全米プロ選手権、全米プロシニア選手権、KPMG全米女子プロ選手権などで使用を解禁。今回の全米プロ選手権がメジャー初の解禁大会となった。

現場から聞こえてくる声はさまざまだ。全米プロ選手権でプレーしたジョーダン・スピース(米国)は「測定器があっても風が吹けば時間はかかる」と話し、ウェブ・シンプソン(米国)は「フェアウエーから大きく外れた(距離を測る目印がない)ときはすごく役に立った」と語った。

米国では解禁の流れが進んでいるように見えるが、日本ではどうなのか。取材を進めると、あまり積極的には使用を推奨していない現実が見えてきた。関係者によると、その根底には「プロたるもの、機器の力などには頼らずにプレーしてほしい」という思いもあるという。

日本ゴルフ協会(JGA)の関係者は、19年の距離測定器に関するルール改正について「『使わなければいけない』ではなく『使ってもいいよ』ということ」と解釈を説明した。男女ともに各大会ごとに定めるローカルルールがあり、女子は日本女子プロゴルフ協会(JLPGA)が主催、主幹する全ての大会で使用を認めていないため、事実上、全試合で使用が不可に。男子では今年の関西オープンでは関西ゴルフ連盟の意向で使用が許可され、中日クラウンズは大会側の意向で禁止に。プレーヤーズチャンピオンシップ・サトウ食品では日本ゴルフツアー機構(JGTO)が初めて使用を認めた。JGTOによると使用を認めたのは、あくまでコロナ禍で定められた特別規定でセルフプレーが許可されているから。そうでなければ「基本的には使用は認めないと思います」としている。

国内では多くの関係者がこの件について「まだまだ試験段階な部分はある」と口をそろえた。JLPGAは使用を認めていない理由について「世界的に禁止という流れだったので」と説明。米ツアーを中心に解禁の流れも出てきていることから「今後、議論の必要性は感じている」とも回答した。男子では選手から使用を求める声も出てきているという。

少なからず課題もある。距離測定器の使用で認められているのは、基本的に2点間の距離の計測と方位把握のみと記したが、高価なモデルになるとレンズをのぞくだけでその2つのほか、高低差や風速がわかってしまうものもある。これらを大会の中でどう見分けていくのか。キャロウェイの距離測定器の代理店となっているマニューバーラインによると、モデルによっては「外切り替え」といい、2点間の距離のみを測っている時と高低差なども測る時とで機器の外見の色分けができる機能が備わっているものもあるという。ただ、その機能がないモデルも多くあり「そうなると見分けはつかない」という。こうした機能は19年のルール改正時に距離計測器の注目やニーズが高まった時に多く出始めたといい「一般の方でもコンペなどで使う時に(機能の見分けを)気にされる方が増えた」。JGTO内では実際にこの点についての議論も出てきているという。

キャディーとの役割分担も微妙になってくる。これまではキャディーが歩測なども踏まえた上で残り距離などを伝えてきたが、距離測定器が使えれば選手が自ら距離を測り、プレーすることも可能だ。ある選手は「(距離測定器が使える)デメリットはないんじゃないですか。キャディーさんが嫌がるかもしれないけど。それぐらいかな」と口にする。一方で多くのプロに帯同してきたあるプロキャディーに聞くと「選手も余計なことをしたくないでしょうし、(距離測定器の)使用が認められても測るのは基本的にキャディーになると思います。そして距離を測ってからの番手選びなどが僕らの仕事な部分もありますから」と話した。

技術の進化とともに出てきた距離測定器。全米プロ選手権では予選ラウンドで約5時間半かかった組もあり、本来の目的であった時短についてもはっきりと効果があったとは言い切れない。ルール等を含め、今後も議論の必要性は十分にありそうだ。【松尾幸之介】