国内男子ツアーの今季最終戦、日本シリーズJTカップは、谷原秀人(43=国際スポーツ振興協会)が出場13度目で初優勝を飾った。

今季2勝目、ツアー通算では16勝目。海外ツアーにも積極的に挑戦してきたベテランの優勝会見は、非常に興味深いコメントが多かった。中でも最終日に実行した、名物ホールの18番パー3攻略の作戦は非常に面白かった。この大会は昨年、その最終18番をボギーとして1打差の2位に敗れていただけに、雪辱の思いがにじみ出ていた。

谷原 去年もチャンスがありましたけど、最後に(18番での)3パットで負けた。今年は絶対に(グリーンに)乗せないと決めていた。届かないクラブを持っていたので狙い通り。最終日の恒例のピンポジションだったので、手前からのアプローチが1番パーを取りやすい。それは分かっていた。

18番パー3は、グリーンが奥から手前に向かって鋭い下り傾斜になっており、ピンよりも奥にボールを乗せると、超高難度の下りパットが残る。一方でピン手前に乗せ、上りパットが残るように打とうとしても、最終日のピン位置はグリーン手前端からわずか10ヤード。ティーショットがグリーンに着弾した時点で、勢いでピンを超えてしまう。バックスピンをかければ、下り傾斜で勢いが加速し、グリーンからこぼれた溝のような難しい位置に落ちてしまう。プロでもボギー、ダブルボギーは当たり前。トリプルボギー以上も珍しくない。シーズンの最後の最後に、恐ろしいホールが待ち構えている。

この最終ホールを前に、谷原は同組で回る2位の宮里優作に2打差をつけていた。パー3だけに、ホールインワンが出る可能性がないわけではないが、限りなく低い。優勝を争うライバルは、良くてもバーディー止まりと考えれば、パーセーブすれば逃げ切り。そこで「届かないクラブ」を持って、あえてグリーン手前のラフに打ち込んだ。パー3で、ティーショットをグリーンに乗せないことが、優勝への近道などという発想がなかった記者としては、谷原の会見でのコメントに衝撃を受けた。

マネジメント通り、谷原は第2打をピタリと寄せてパーセーブした。作戦勝ちともいえる、ベテランならではの優勝を勝ち取り、かみしめるように右手を握り締めて喜んだ。一言に「マネジメント」と言っても、無数にある選択肢から、最良の“一手”を選ぶには、将棋や囲碁のような奥深さがある。加えてゴルフの場合、思い描いたように、その“一手”を実践する技術が必要であり、その技術を身に着けるまでの努力も不可欠。担当になって2年目の国内でのツアー最終戦で、これまでで最も、ゴルフの奥深さを感じることができたように思う。【高田文太】