<女子ゴルフ:アクサ・レディース>◇最終日◇30日◇宮崎・UMKCC(6470ヤード、パー72)◇賞金総額8000万円(優勝1440万円)

 プロ3年目の渡辺彩香(20=ユピテル)が最終ホールの逆転イーグルでツアー初優勝を決めた。終盤16、17番でバーディー、最終18番パー5で第3打をチップインさせ、残り3ホールで藤田幸希(28)との3打差を引っ繰り返した。世界の岡本綾子(62)から“彩”の字をもらい、世界の飛ばし屋・福嶋晃子(40)にあこがれるツアー一の飛ばし屋が“奇跡”を起こした。

 最後にドラマが待っていた。首位藤田幸と1打差で迎えた最終18番パー5のグリーン左ラフ。渡辺の20ヤードのアプローチは、グリーン面に5ヤード入った場所から軽いフックラインでカップに消えた。「プレーオフにすることだけを考えていた。もちろん『入ればいいな』とは思ったけど…」。逆転イーグルにわき上がる大歓声の余韻が残る中、入ればバーディーの藤田のアプローチが外れ“奇跡”は完結した。

 3番アイアンが輝いた。残り219ヤードの第2打で手にし、チップイン圏内まで運んだ。使いやすいフェアウエーウッド、ユーティリティーがロングアイアンに取って代わった時代に、中学時代から使い続ける。「200ヤード前後のショットで、イメージが出やすいので」と言うが、でっかい飛距離を操る者だけに許された“勲章”だ。

 骨太で、規格外のスケールは約束されていた。父光章さん(53)と母和枝さん(47)が大ファンだった岡本綾子から「『綾』の字いただきたい」と、画数を調べて「彩香」と名付けた。

 ゴルフにどっぷりはまったきっかけは「キャリーの距離は世界一」を自任した福嶋晃子だった。10歳のとき、父と観戦した神奈川・大箱根CC開催のCATレディースで目の当たりにした。飛ばす。すごい。しかも小技もうまい。「福嶋さんみたいになりたい」。父から「とにかく飛ばせ!

 マン振りしろ!」と教え込まれ、熱海の砂浜を走って体を鍛えた少女は、そこから本気になった。

 飛距離と同じく夢はでかい。「米ツアーにも行きたい。海外メジャーにも勝ちたい。でも、最大の目標はオリンピックのメダルです」。5番終了時の最大6打差を逆転した。世界を狙うにふさわしい初優勝から、渡辺はサクセスストーリーを歩き出す。【加藤裕一】<渡辺彩香(わたなべ・あやか)アラカルト>

 

 ◆ビッグ

 1993年(平5)9月19日、静岡県熱海市生まれ。体重3700キロもあり、母和枝さんは帝王切開を余儀なくされた。

 ◆新幹線通学

 ゴルフは6歳から。中3の08年日本ジュニア(12~14歳)優勝。09年からナショナルチーム入り。埼玉栄高まで1カ月約6万円の交通費で片道2時間の新幹線通学。卒業後の12年に比嘉真美子らとプロテストに合格。昨年賞金ランク46位で初シード奪取。

 ◆ドカベン派

 高校ではご飯とおかずが分かれた弁当が必須。それも新幹線内の朝ご飯分と、学校の昼ご飯分の2個を持って通った。

 ◆非力な?

 飛ばし屋

 172センチ、65キロでドライバー飛距離270ヤードを誇るが、足のサイズは24・5センチ、グローブは21センチと小さめ。握力は左右とも約30キロ。

 ◆家族

 両親、妹、祖父母。

 ▼歴代14位の若さ

 渡辺の「20歳192日」の初優勝は日本女子ツアー史上14番目の若さ。最年少優勝は韓国のキム・ヒョージュ(金孝周)の「16歳332日」(12年サントリーレディース)。2位が宮里藍の「18歳101日」(03年ミヤギテレビ杯)。