ラグビーワールドカップ(W杯)は終わっても、国内ラグビーはこれからが佳境です。毎週日曜日は「ラグビー流 Education」。17日に5大会連続18度目の全国選手権出場を決めた名門・桐蔭学園(神奈川)を率いる藤原秀之監督(51)と、元日本代表の今泉清氏(52)という“レジェンド”2人が、子育て世代や指導者へメッセージを送ります。今回はスポーツに限らず、人を育てるために鍵となる「目標の設定」についてです。

★藤原秀之監督の考え

大リーグの大谷翔平選手の活躍に伴い、岩手・花巻東高時代の「目標達成表」というチャートが注目されました。目標を明確化することの重要性。桐蔭学園ラグビー部では「最高目標と最低目標」を設定するという。メンタルコーチの指導もあって、4年前から本格的に習慣化しました。

藤原 個人の目標の最高と最低、チームの目標の最高と最低。年間通してのもの、試合ごとのもの…。年間通じてやっています。

個々がノートに目標を書き、自己採点する。

藤原 基本的にチェックはしません。義務的になってしまうと、形式化に終わってしまうので。

書き方は本人に任せる。自分を自分で確認する。

藤原 そういうことを個人でできるようにするための訓練だと思っています。それがラグビーだけでなく、人生通じてのスキルになってくれればいいと。人生の最高目標と最低目標というのもあるでしょう。

「最低目標」の1つの目安は「10回やったら10回できること」。

藤原 相手の状況に左右されずにできること。例えば「(指示の)声をしっかり出す」。その基準があれば、1つのプレーで失敗しても、立ち返るところがあるはずです。

例えば、SHが「最高目標はパス成功率100%」を掲げた場合、「(パス動作で)最後までフォロースルーをする」を最低目標としたとします。

藤原 これなら相手に関係なくできる。その選手がそれでパスの正確度が上がると考えるのなら、それでいいと思います。

当然達成度が上がれば、目標も上がり、プレー全体の精度が上がっていく。鍵は目標の具体性。

藤原 最高目標を「1試合に必ず1回はターンオーバー」にした場合。強いタックルが必要で、その前に相手をしっかり見ること、適正なポジショニングも必要です。そう考える中で、「10回やったら10回できること」は何なのか、と。

本人の意識を高めるべく目標や採点のチェックはしないが、一方で目標を「共有」できれば、指導や働きかけの幅が広がる。

藤原 「ここは(目標と)違うんじゃない?」とか「もう1度(基本に)戻ろう」となれる。目標が明確で、1人1人がおのおのの目的を達成してくれればいい。要は自分がチームにどのように貢献できるか。またはラグビープレーヤーとしてなりたい姿を具体的に描いて、近づいてほしい。

チームで1つの目標を掲げることも大事だが、それは個々が目標に到達してこそ、実現するのだろう。

★今泉清氏の考え

今泉氏は目標の設定に際して、目的との違いを意識することを提言する。

今泉 大人でも目的と目標を混同しがちです。目的は企業における理念、思いのようなもの。目標は目的が達成されるために必要な行動、つまりミッション。具体的だったり、数値化されることと考えます。

例えば企業。

今泉 目的(理念)は「社会から必要とされる企業になる」とします。利益は目的ではない。でも、企業を維持して成長するために利益が必要。だから、利益の金額や利益率などの数字が目標に掲げられる。目的と目標があいまいだと、目先のことに左右されてしまいがちです。

目標は目的達成への道しるべ。ラグビー日本代表に例えると。

今泉 目的は「歴史を変える」「日本人でも(国際舞台で)ラグビーができると証明する」。そのために「W杯でベスト8入り」が目標になる。そして、目標に到達するための手段、準備となるわけです。

E・ジョーンズ氏が率いた15年W杯から受け継がれた思いが、今回のW杯では結実した。

◆藤原秀之(ふじわら・ひでゆき)1968年(昭43)東京生まれ。大東大第一高でラグビーを始め、85年度全国選手権でWTBとして優勝。日体大に進む。卒業後の90年に桐蔭学園高で保健体育の教員、ラグビー部のコーチとなり、02年から監督。同部は本年度で5大会連続18度目の全国選手権出場に。決勝進出6回、10年度優勝時のメンバーに日本代表の松島幸太朗ら。今や「東の横綱」と呼ばれている。

◆今泉清(いまいずみ・きよし)1967年(昭42)生まれ、大分市出身。6歳でラグビーを始め、大分舞鶴高から早大に進み、主にFBとしてプレースキックなどで大学選手権2回優勝、87年度日本選手権優勝に貢献。ニュージーランド留学後、サントリー入り。95年W杯日本代表、キャップ8。01年に引退した後は早大などの指導、日刊スポーツなどでの評論・解説、講演など幅広く活躍。