フィギュアスケート男子で昨季の世界選手権2位の鍵山優真(18=オリエンタルバイオ/星槎)が、まずは初の日本一を目指す。

22年北京五輪開幕50日前の16日に合わせてインタビューに応じ、羽生結弦(27=ANA)や宇野昌磨(23=トヨタ自動車)らに挑む代表最終選考会・全日本選手権(22~26日、さいたまスーパーアリーナ)の目標を優勝と定めた。冬季五輪2大会出場の父正和コーチ(50)は、早ければ23-24年シーズンに世界初の「5回転ジャンプ」を優真に挑戦させるプランを初告白した。

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鍵山は明るかった。「残念だったけど、落ち込んだのは一瞬。練習できるからいいかなと」。今季、世界で1人だけのグランプリ(GP)シリーズ2連勝。トップ通過で初のGPファイナル進出を決めたが、新型コロナ変異株のオミクロン禍で中止に追い込まれた。前週末まで行われるはずだった北京五輪の前哨戦が消滅。でも前を向く。4年に1度、五輪代表が決まる全日本が翌週に控えている。

「4年前(平昌五輪代表)選考会を見に行って、すごく皆さんの五輪に対する気合を感じて。今度は自分が体験しないといけないのか、と思うと緊張する」と笑いつつ闘志はみなぎる。

「羽生選手は今季1回も試合に出ていませんが、進化が止まらない方なので。昌磨君も、もっと成長してくると思う。自分はまだまだ追いかける立場ですが、でも全日本で優勝しなきゃ五輪はないと思っているので。勝つ気で頑張りたい」

全日本は2年連続3位。昨年も一昨年も上位は羽生と宇野だった。今回も2人はエントリーしているが「自分が成長しても皆さんも成長されるので(笑い)。距離感はあまり分からないですね」。最新の世界ランキング1位でも差が詰まった実感はなく「(佐藤)駿とか(友野)一希君とか(山本)草太君とか怖い存在」と、遠征や練習で一緒になったライバルの名も挙げた。「(代表は)3枠あるので優勝できなくても可能性はある」。理解はしているが「確実な1枠を取りにいく。優勝する気で戦わないと意味がない。出られたとして、それは五輪でも同じ」と頂点にこだわった。

現在はGPフランス杯から帰国。待機期間を終えて中京大で練習している。来春の進学希望先だ。「すごくありがたい。一日中ずっと貸し切りで滑れるし、いい環境」。宇野と練習することもあり「圧倒される。練習の鬼。すごく刺激になる」と痛感する。勝つために全日本は安定度重視で。4回転ジャンプはサルコーとトーループとし、新技のループは封印する方向だ。

92年アルベールビル、94年リレハンメル五輪出場の父正和コーチも同調する。「全日本は特別。確率の悪いものを入れてはいけない舞台」と4回転ループ回避を示唆したが、一方で「優真のサルコーとトーループの質は世界でもトップクラス」と客観的に評価。「来季はアクセル以外の4回転ジャンプをコンプリートさせたい」と4回転5種への夢を語り、さらに続けた。

「プラス1回転ですね」

すなわち5回転。前人未到、まだ国際連盟も跳ぶ選手の出現を想定していないため、基礎点すら決まっていない領域への挑戦に初言及した。「羽生選手は(世界初の)4回転半に挑んでいますから。さらに上を目指すとなれば、そこ(5回転)じゃないですか」と。

心身への負担も未知の世界で「体づくりなど考えると、もちろん来季はない。再来季かな」と23-24年の実戦投入を示唆した。自身は90年代に、非公認ながら日本初の4回転ジャンプを跳んだ男は、愛息の才気に「サルコーとトーループは(5回転を跳べる)可能性が十二分にある。真剣に考え始めたのは去年のNHK杯くらい」と温めてきた。

優真も、5回転の練習の前に「まだ新しい4回転を入れていない。伸びしろたっぷりと自分に期待している」。可能性を示すべく、まずは父が3連覇した全日本をサルコーとトーループで取りにいく。【木下淳】

<ジャンプの歴史>

◆2回転半(ダブルアクセル) 48年サンモリッツ五輪でディック・バトン(米国)が主要国際大会などでは世界初成功。

◆3回転 5種類のうちの1つであるループは52年オスロ五輪でバトンが初めて決めて、2連覇を達成。

◆3回転半(トリプルアクセル) 初成功者は78年世界選手権のバーン・テイラー(カナダ)。

◆4回転 88年世界選手権でカート・ブラウニング(カナダ)が初めてトーループに成功。日本人では98年世界選手権の本田武史。ループは16年オータム・クラシックで羽生結弦が世界初成功。フリップは16年チームチャレンジカップで宇野昌磨が初めて決めた。

◆4回転半(クワッドアクセル) 成功者はいない。羽生が「一番の目標」と明言して練習中。