「かなだい」こと村元哉中(30)高橋大輔(37)組(関大KFSC)が自己ベストの115・95点をマークし、合計188・87点の11位で2年連続の大舞台を終えた。

日本初の来年大会の出場枠「2」がかかった10位以内にはわずか届かずも、結成3季目で日本歴代最高位タイ。「オペラ座の怪人」の世界観を2人で作り上げ、万感の涙に暮れた。

終盤のステップを刻むときだった。瞬間、視線が交わった。「いける!」。互いに読み取った感情が重なる。笑い合った。歓喜はすぐそこだ。

高橋が村元を抱きかかえ、足を絡ませて終幕へ。全ての要素を終えて、離れてポーズを決めた。高橋の肩が震えた。目には涙があふれた。優しく抱き合った村元も泣いていた。「finally i did it!(やっとできた!)ありがとう!」。2人の言葉も重なった。

選手紹介から満員の会場は沸騰した。高橋がシングル時代に日本最高位の銀メダルを手にした07年大会、そのフリーが「オペラ座の怪人」だった。16年ぶり、同じ自国開催の世界舞台で、アイスダンサーとして帰還。その縁に本人もファンも、熱くなった。

曲が鳴り始めた。ファントム(怪人)の仮面を、ヒロイン演じる村元がはぎ取る場面から、その世界に浸った。即座、その歓声は意識の外へ。「聞こえてはいるんですけれど、聞こえていると認識していない方がいい演技ができている」。かねてシングル時代の感覚を、そう説明した。「アイスダンスではまだ試合2回、3回しかしていないから、何とも言えない。もうちょっと試合をしてみて分かるかな」。そう見通したのは、転向1季目だった。

ついにこの日、「演技に没頭していた」と、その感覚がよみがえった。それも、1人ではない。「2人だけの世界に自分が入り込んでいた」と感じていた村元が一緒だった。この種目に誘ってくれた最高のパートナー。「自分自身の知らない一面を引き出してくれました」と、感謝した。

昨年大会の悔しさで決めた1年続行。納得感を手にし、その先はあるか。高橋は「考えていません。今日は余韻に浸ります(笑い)」と笑みを浮かべた。いまは、アイスダンスで出会えた、こんな感情に身を委ねたい。「自分たちでも満足いく演技ができた時に、1人で滑るよりも喜びが2倍、3倍になる。一緒に物事を作り上げていくって、こういうことなんだな」。【阿部健吾】