もう1つの「日本代表」の戦いがあった。ラグビー日本代表が優勝を大目標に掲げ、前回大会を超える4強入りを狙うW杯フランス大会。9日の1次リーグ初戦でチリを42-12で下して白星発進した中、注目を集めたのがグラウンド脇に置かれたデジタル看板だった。
日本人にはおなじみのビール「アサヒスーパードライ」を宣伝する文字が躍るが、よくよく見るとちょっと違う? 今大会からアルコール飲料等のカテゴリーのワールドワイド・パートナーを担うアサヒグループジャパンに理由を聞くと、思わぬわけがあった。
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「あと少しでトライ! いけ!」。そんな応援が会場でも、映像越しでも聞こえただろうチリ戦。サイドラインを疾走する選手のその奥のデジタル看板には「Asahi SUPER DRY」「辛口」の見慣れた文字が…と思いきや、書かれていたのは「SUPER TRY」。ラグビーのトライに引っかけたシャレかと感嘆していたが、もっと驚く事実があった。
「『Asahi』に見えますが、実は『Aaah!』、日本語で言うなら『あーー!』なんです」。教えてくれたのはアサヒグループジャパンの広報部。確かにフォントは一緒だが、社名ではない。そこまでしゃれる必要が? その疑問にも、明瞭に答えてくれた。
「フランスの法律に沿った結果、このような掲示になりました」。商品名を出せないわけは91年に同国で制定されたアルコール広告規制法、通称エヴァン法にあった。依存症などの健康被害を重く見て、スポーツとアルコールを結び付ける広告は一切禁止。「そのため、直前ギリギリまで交渉していました」と明かす。
アルコール飲料等のカテゴリーで大会最高位スポンサー、ワールドワイド・パートナーに決まったのは21年4月だった。19年日本大会の盛り上がりも追い風に、07年大会から契約を続けたオランダの大手ハイネケンに代わった。エヴァン法を理由に尻込みしたとされる相手に対し、積極交渉でその座を射止めた。
規制は織り込み済みで、商品を想起させる試行錯誤の結果が「Aaah!」だった。欧州では例も多い手法。21年の世界のビールシェア(Barth Report)では第7位だった同社は、欧州などの海外を拠点に、日本代表と同じく4強、それ以上を目指す。法律による制約との攻防でも、“トライ”を狙った。
ワールドラグビー(WR)が試合後に配信する映像では、看板はデジタル処理で「SUPER DRY」の商品名に変わり、競技場や各都市のファンが集うラグビー・ビレッジでも提供され、期間中は300万リットルをローマ工場から運ぶ。商品のアンバサダーを務める五郎丸歩氏(37)も「日本代表も大変心強く思っているんじゃないか」と歓迎する“日本代表”。17日のイングランド戦は、看板にも注目だ。【阿部健吾】
○…日本の第2戦の相手、ラグビーの母国イングランドは開催国フランスのスポーツとアルコールを結び付ける広告禁止を地でいく? ようだ。大会中の禁酒をチーム内の決めごとにしているという。英紙デーリーミラー(電子版)が11日に伝えている。同紙はプロップのゲンジが9日、勝利をおさめたアルゼンチン戦後にコーラの空瓶を指さしながら、「W杯で優勝したい。できると信じている」とノンアルの願掛け? での2度目優勝へと突き進むチームの思いを明かしたと報じた。