<大相撲名古屋場所>◇14日目◇25日◇愛知県体育館

 大関琴欧洲(26=佐渡ケ嶽)が、横綱朝青龍(28)を右からの投げで崩し、最後は力強く寄り切って2敗を守り、逆転優勝へ望みをつないだ。横綱白鵬(24)は大関日馬富士(25)を送り出して1敗を堅持し、賜杯の行方は2人に絞られた。千秋楽で白鵬が朝青龍に勝てば2場所ぶり11度目の優勝が決まるが、琴欧洲が日馬富士に勝って、白鵬が敗れれば13勝2敗同士の優勝決定戦となる。自力優勝はない琴欧洲だが、昨年夏場所以来7場所ぶり2度目の優勝へ死力を尽くす覚悟だ。

 2度目の賜杯へ、琴欧洲が力を振り絞った。立ち合いから朝青龍の右上手をすばやく取ると、出し投げで体勢を崩した。「考えると(動きが)遅くなる。当たって体に任せようと思った」。ひざを折って角界最長身203センチの体を低く沈め、あっという間の寄り切り。「先に先に攻めようと思っていた。今場所は体がよく動いている」と笑顔を見せた。

 06年春に右ひざ半月板を損傷し、今もテーピングやサポーターが欠かせない。その影響で、ここ数場所は腰高の相撲が目立っていた。見かねた師匠の佐渡ケ嶽親方(元関脇琴ノ若)から「ひざを折って寄っていけ。その身長なら、ひざさえ曲がれば負けない」と指導を受けた。場所前は、琴光喜、琴奨菊らとのけいこを40番近くこなした後、若い衆を相手に「ひざで寄る」意識でさらに10番以上をこなした。これまでより20番ほど多い1日50番など豊富なけいこの成果が出た。

 万全の取り口に、敗れた朝青龍も舌を巻いた。「立ち合いも低かったし、バタバタしない。まわしに手がいくのも速いね」。長身で力も強い琴欧洲は、かつて朝青龍に「相撲が下手だ」とこき下ろされたことがあった。そんな相手に何もさせない完勝だった。

 支度部屋に戻っても、表情は明るい。写真を撮るのが趣味で、この日はカメラマンが持つプロ仕様のストラップを見て「どうやったら手に入るの?」。ストラップは非売品と知ると「(入手には)どうしたらいいの?」。根負けしたカメラマンに「優勝したらあげる」と言われ、笑いながら「あざ~す」と返した。

 だが、風呂から出てきた1敗の白鵬とすれ違うと、チラッと視線を投げかけて表情を一変させた。白鵬の優位は明らかだが「自分のやることをやるだけ。どうなるか分からないよ」。まずは本割で過去10勝10敗の大関日馬富士を下し、優勝決定戦の実現を待つ。【山田大介】