<大相撲春場所>◇10日目◇19日◇大阪・ボディメーカーコロシアム

 東前頭7枚目の隠岐の海(27=八角)が、優勝争いに生き残った。東前頭5枚目の阿覧(29)を寄り切りで破り8勝目。大関琴奨菊(29)が敗れたため、ただ1人の2敗力士として、全勝の横綱白鵬(28)を追う。師匠の八角親方(49=元横綱北勝海)は「稽古不足」と辛口だが、高校時代は航海士を目指し10種の資格を取得した努力家。無欲で春場所を盛り上げる。

 冷静な“かじ取り”で、8勝目へたどり着いた。腕力自慢の阿覧と胸を合わせ、左上手を取った瞬間に前に出て寄り切った。10連勝の白鵬に続く幕内2人目の勝ち越しを決め、2敗を死守。「いいっすね」と笑みをこぼした。

 発奮材料があった。1月の初場所は千秋楽で勝ち越したが、八角親方に怒られた。理由は、昨年九州場所で右足中指を骨折して途中休場後、稽古を怠ったから。「悔しかったですね」。だからこそ、8勝しても満足していない。「まだまだです」と気を引き締めた。

 もう1つ、同部屋で新入幕の大岩戸の存在がある。稽古を重ねて31歳で、はい上がってきた兄弟子を見て「刺激になってます」。山形・加茂水産高OBの大岩戸に対し、隠岐の海は島根・隠岐水産高OB。船を操縦する免許や資格の話で盛り上がったこともある。

 隠岐水産高時代の恩師で相撲部の吉山修監督(61)は「高校時代は1学年下の豪栄道や栃煌山には勝てなかったけど、組んだときは強かった」と振り返った。主将と生徒会長を務めた同校では、航海士を目指し勉学にも努めた。取得した資格は計10種。吉山監督は「(遠洋大型船を操るのに必要な)3級海技士の筆記に合格したのは彼の世代が初めてで3人しかいなかった」と、努力家の一面を証言した。

 八角親方は「幕内でも下の位置だから余裕を持っているけど、上なら通じない。もっと稽古しないと」と厳しいが、期待の裏返しでもある。今場所はお好み焼きなど、大阪名物を食べ体重も6キロ増の160キロで力もついた。「油断したら負けるタイプ。1番1番頑張りたい」と隠岐の海。終盤戦も、相撲の操縦を誤らずに白星を重ねていく。【木村有三】