<大相撲夏場所>◇12日目◇22日◇東京・両国国技館

 結びの一番が、予想もしえない結末を迎えた。横綱鶴竜(28=井筒)が攻め込んだが、悪癖の引き技が出た際、空振って足を滑らせた。瞬間、今度は関脇豪栄道(28=境川)が引いた。落ちた横綱。軍配は豪栄道に上がり、座布団が乱れ飛んだ。5人の審判は誰も動かない。だが、ただ1人、真っすぐに右手を挙げて物言いをつけた。東の土俵下に座っていた白鵬だった。

 白鵬

 完全には見えなかったが、少し(まげに)かかっているのが見えた。誰も手を挙げないから「あれ?」っと思った。そうだろうなと思って挙げました。

 最近では異例の控え力士からの物言い。鶴竜の師匠の井筒審判長(元関脇逆鉾)は「自分は(鶴竜が)負けたと思っちゃったが、横綱が手を挙げたから何かあったかと土俵に上がった」。気づかず、上がり遅れた審判もいた中で約1分半、協議。ビデオ室に確認し「確かに(鶴竜の)体勢が崩れていたが、つかんでいることは間違いない」。史上初めて、横綱がまげつかみの反則で勝ちを拾った。

 「つかんだという判定なら仕方ない」とぶぜんとした豪栄道。相撲で負けていた鶴竜は「変な形で頭が下がった。横綱がよく見ていた」と“先輩”に感謝したが、後味の悪さが残る一番だった。【今村健人】

 ◆控え力士の物言い

 行司が軍配を上げるが、土俵下の審判や控え力士は異議があれば物言いをつけられる。幕内では96年初場所9日目の土佐ノ海-貴闘力戦で、控えの貴ノ浪が物言いをつけて行司差し違えで貴闘力が勝って以来18年ぶり。直近では10年名古屋場所4日目序二段の玉希真-八剱戦で、土俵下の受磐が手を挙げ、差し違えで玉希真が勝った。東西対抗だった明治時代などでは横綱ら控え力士の物言いは日常的。38年春場所9日目で土俵下の横綱玉錦が、横綱双葉山(対両国戦)の勇み足だと物言いをつけて26分間も協議した(結果軍配通り)。