「頼む直、山崎に力を貸してくれ!」

 学生コーチの竹内健人君は、ベンチに飾ってあった背番号17のユニホームに向かって叫びました。

 1点リードで迎えた延長10回裏、2死一、三塁。優勝まであとアウト1つ、という土壇場になり、それまで好投を続けていた山崎康晃君(投手・4年)が熱中症から臀部(でんぶ)付近から右足にかけて、けいれんを起こし、急きょベンチに下がり治療。

 治療が終わった山崎君は、グラブでポンと背番号17のユニホームを叩き、再びグラウンドに戻っていきました。

 背番号17-国指定の難病、“黄色靭帯骨化症”で16日に手術、現在もなお北海道苫小牧市の王子総合病院整形外科でリハビリ中の花城直君のユニホームです。

(花城直君のお話しは、前回のコラムで書かせていただきました)

 この試合中、最初から最後まで。選手たちは、ベンチに戻るたび、このユニホームを触り「直、力を貸してくれ」と祈りました。

優勝が決まった後、ベンチ前で背番号17が選手たちをお出迎え。選手たちもまた、1人1人、そのユニホームにタッチして優勝報告しました
優勝が決まった後、ベンチ前で背番号17が選手たちをお出迎え。選手たちもまた、1人1人、そのユニホームにタッチして優勝報告しました

 「直が、チームを1つにしてくれました。直のためにも絶対に優勝する。そのためには自分たちに何が必要なのか。この1週間、考えさせられました」と学生コーチの竹内君は振り返ります。

 練習では、気が抜けたプレーがあれば、「おい! 直にこんな姿は見せられないぞ」と檄が飛びました。

 27日、延長10回満塁本塁打を浴び初戦を落とすと、その日の夜、そして翌日朝には、5時から4年生が率先してサブグラウンドの草ぬき。その姿を見て、5時15分には下級生もそれにならい、草ぬきを始めました。

 「もう1度原点を見直す。そのために草ぬきをしたんです」(渡将太君・捕手・4年)

 優勝という頂上ばかり見つめず、まずは足元からしっかり踏みしめて一歩一歩、歩む。その先には必ず頂上が見えてくる。初戦を落とし、選手たちは、今一度、自分たちを見つめ直すことができました。

 そうして2戦目は公式戦初先発の川本君が完封勝利。

 3戦目の決選を前に控えたこの日の夜、選手だけのミーティングに、エースの山崎君が突然、記念ボールを入れるケースを持ち出しました。

 「明日のウイニングボールはこれに入れて直にあげるんだ。自分も頑張るから、みんなも頑張ってくれ」

 そう言って、全員に頭を下げました。

 もう壊れてもいい。それくらいの気持ちで明日は投げる。だから…みんなも一緒に頑張って欲しい。打ってくれ-。そんな思いが込められていたのでしょう。

 チームメートを思う気持ちは、遠く離れた苫小牧にいる花城君も同じでした。

 26日夜には生田監督に電話。

 「監督さん、僕はみんなのおかげで手術が成功しました。今度は僕がみんなを応援する番です。絶対に勝ってください。僕にできることは、(入院先の)北海道から祈ることしかできません。でも、応援しています。絶対に勝ってください。監督、勝ってください」

 難病の手術に立ち向かったその勇気を、今度はチームメートへの祈りに込めました。

 北海道と東京。遠く離れていても、気持ちを1つにして戦った亜細亜大学。2戦目の川本君の完封に、初戦ではベンチにも入っていなかった池知佑也君(高知・外野)のソロ本塁打を含む3打数3安打の活躍。まさに、花城君の力が宿ったかのような活躍でした。

 隙のない野球や徹底力が根付いたプレーと、その強さも光りましたが、何より今春の亜細亜大を優勝に導いたのは、病気と闘うチームメートと選手たちを結んだ「気持ち」そのものではなかったでしょうか。

 「直の存在は、このチームにとって本当に大きかったです」(竹内君)

写真左から藤岡裕大君(内野・3年)、北村祥治君(内野・3年)、板山祐太朗君(外野・3年)。花城君とは同級生。背番号17が心の支えでした
写真左から藤岡裕大君(内野・3年)、北村祥治君(内野・3年)、板山祐太朗君(外野・3年)。花城君とは同級生。背番号17が心の支えでした

 気持ちの強さは何より大きな力を生む。

それを、目の当たりにした亜細亜大の優勝でした。

 花城君の病院でのリハビリは順調。退院も間近だそうです。

 亜細亜大がこれから臨む大学日本選手権。今度はそのスタンドから声援を送るのでしょう。

 今、再び心を1つにして日本一へ。

 新たな挑戦へ、選手たちは再び走り始めました。

写真左から、主将の眞野恵祐君(内野・4年)、長曽我部竜也君(内野・4年)、池知佑也君(外野・4年)、藤峯開君(主務・4年)。この大一番で4年生がチームを引っ張りました
写真左から、主将の眞野恵祐君(内野・4年)、長曽我部竜也君(内野・4年)、池知佑也君(外野・4年)、藤峯開君(主務・4年)。この大一番で4年生がチームを引っ張りました
リハビリに励む花城君。チームの優勝で笑顔! リハビリにも力が入ります
リハビリに励む花城君。チームの優勝で笑顔! リハビリにも力が入ります