深紅の優勝旗が、半世紀の時を経て栃木に帰ってきた。作新学院(栃木)が、決勝で北海(南北海道)を下した。決勝の安打を放ったのは、エース今江を支えた鮎ケ瀬一也捕手(3年)だった。

 「歓喜」という鎮痛剤で痛みは消えていた。マウンドに広がる輪。鮎ケ瀬はベンチを飛び出ると、両足を引きずりながらも、笑顔で飛び込んだ。

 「いやもう、最高にうれしいですね。この夏、今井と2人でやってこれて良かったです」

 好投した今井とは県予選からコンビを組んだ。ピンチでは何度も「いいボール投げてるから、頑張っていこう」と声を掛けた。この日もウイニングボールをミットに収め、本塁からマウンドに向かうつもりだった。だが、7回。1死三塁でダメ押し打を放った際、両足のふくらはぎがつってしまった。その裏、手当てを受け守備に就いたが、痛みは引かず、8回から仲尾にマスクを譲った。「(試合には)最後まで出たかったんですけど、足がついてこなかった」。歓喜の瞬間はベンチから見守ったが「あいつならできるって信頼してました」と優勝を決めた仲尾の三塁送球に賛辞を贈った。

 この試合、勝負を決めたのは鮎ケ瀬のバットだった。4回無死満塁。相手エース大西は、失策から同点に追いつかれ浮足立っていた。そんな一瞬の隙を逃さない。初球、真ん中に入った甘い直球を捉え中前に運んだ。「チャンスだったんで初球から。変化球を待っていたんですけど、直球に反応して打てました」。決勝点となる適時打でチームに勢いをつけた。

 毎年、夏大会前に行う恒例行事、強化合宿が選手を強くした。前年まで4週間行っていた合宿は、今年は6週間に延長。早朝5時半に学校のトラックに集合し、1500メートル、800メートル、400メートルを走り込み体力強化に努めてきた。制限時間内に走破できなければ、次のメニューに進むことができない。「自分たちは弱いと言われ続けて。秋も春も県で勝てないくらい弱くて」。常勝軍団になるために、鮎ケ瀬も死にものぐるいで練習に取り組み、自信がついた。合宿後、小針監督の言葉が変わった。「お前らは日本一になれるチームだ-」。自信が確信になった瞬間だった。

 作新学院にとって約半世紀ぶりの大優勝旗。鮎ケ瀬は最後に直立不動で語った。「全国制覇を目指してやってきたかいがあったなと思います」。その表情は実に晴れやかだった。【梶本長之】