大槌、高田(ともに岩手)や相双連合(福島)など震災で大きな影響を受けた学校に支援を続ける指導者らの集まりがある。駒大苫小牧(南北海道)元監督で、神奈川・鶴見大コーチの香田誉士史氏(40)が代表を務める「被災地に球音を取り戻す会」だ。香田氏は言う。「夏のために、多くの高校球児は野球をやっている。夏の大会は、すべての高校がトーナメントで1つにつながるんです。そのつながりの中でやってきた者としても、何かできないかという気持ちがあった。会はその思いを持った人たちの集まりです」。

 4月5日。香田氏が、ツイッターでつぶやいた。「被災地の高校の招待試合をして夜激励会とか、野球の物資とかの寄付をしたりとか無理かな。難しいかな」。すぐに慶応(神奈川)の上田誠監督ら賛同の輪が広がり、北海道から九州の学校から野球用具が集まった。被災地で必要とされているのは新品なのか、使い古しでもいいのか。数はいくつか。善意が無駄にならないよう、現地の指導者らから正確な情報を集めてから届けている。

 被災地の高校を練習試合に招く活動も橋渡しした。香田氏ら昭和46年生まれの野球関係者でつくる「46年会」のメンバーでもある武藤賢治監督率いる桐生商(群馬)が、父母会の協力を得て、招待試合を行えることになった。招待できる日は6月11、12日。津波で校舎が壊滅的被害を受けた高田の佐々木明志監督に電話すると偶然、その日だけ空いていた。「これこそ、縁だ」。目に見えないつながりがあると改めて思った。

 駒大苫小牧を率いて04、05年夏の甲子園で連覇した香田氏なら、大々的に宣伝すれば、もっと大規模な活動も可能だっただろう。だが、そうはしていない。「支援する側が主役になるのはどうか」。多くの芸能人がテレビカメラを連れ立って被災地を回る姿に違和感を抱いていたという。

 会のメンバーは全国の指導者中心に100人以上に増え、その対象は中学や少年野球にも広がった。活動は今夏以降も継続する。親が職を失うなど、野球の継続が経済的に困難な生徒が多くいることを聞いているからだ。「いつでも動けるようありたい」。香田氏らは高校野球がつないだ縁を、さらにつないでいこうとしている。【清水智彦】