<高校野球埼玉大会>◇13日◇2回戦

 ヤクルト増渕竜義投手(22)の弟、鷲宮・増渕雅也投手(2年)が夏初登板初勝利を挙げた。兄とは違う左腕投手は、1点を追う4回途中から登板。9回まで1安打7奪三振で投げ切り、逆転勝利を呼び込んだ。

 ブルペンにいた細身のサウスポー増渕が、ダッシュでマウンドに向かった。4回に3失点で逆転され、なお2死一、二塁のピンチ。「投げたかったです。自分が何とかしたかった」と集中した。遊ゴロに仕留めてピンチを脱すると、5回1死からは4者連続三振。夏初登板を7奪三振で投げ切った。雨でぬかるむマウンドで、しびれる1点差ゲームの主役になった。

 増渕家で唯一の左利き。顔はそっくりの兄から「左は有利なんだ」と励まされる。5歳上の兄にあこがれ小、中、高とすべて同じ道を歩んできた。入学後に上手投げから、スリークオーターに腕を下げた。最速136キロ。スライダー、カーブでカウントを稼いだ。

 元ヤクルトレディーの母洋子さんの仕事柄、冷蔵庫にはいつもヤクルト製品があった。カルシウムは補給するが、体重が増えないのが悩み。「プロを目指したい」と、今は兄も続けた毎晩3合飯の増量メニューで入学時の56キロを63キロまで増やした。柿原実監督(39)は「こういう舞台を経験したことは大きい。兄のようになってほしい思いはある」と期待する。

 06年夏の埼玉大会決勝はスタンドから見つめた。連投の兄は10安打4失点で浦和学院に敗れて、泣いた。「浦学に勝てなかった思いは自分が晴らしたい」。最後に会ったのは、今春のセ・リーグ開幕直前。「夏頑張れ」とかけられた声を胸に刻む。9回2死二塁、一打同点のピンチを空振り三振で締めて、雄たけびを上げた。夢につながる1勝をつかんだ。【前田祐輔】