昔から日本ではなじみのある「験かつぎ」や「験直し」にこだわる選手は、実はメジャーでも珍しくありません。今季からイチローが所属するマーリンズを引っ張っているスピード・スター、1番ディー・ゴードン二塁手(27)は「あの手この手」でチームの悪い流れを変えようと、真剣に? 取り組んでいます。

 若手主体のチームとはいえ、バランス良く補強した今季の開幕前、マ軍はナ・リーグ東地区でもナショナルズの対抗馬として挙げられていました。ところが、フタを開けてみると、開幕3連敗。投打の歯車が合わず、一時はレドモンド監督の更迭がささやかれるなど不穏な空気が流れそうでした。

 その時、立ち上がったのがゴードンでした。開幕4戦目でサヨナラ勝ちした際には、ヒーローの頭上でおもちゃのバスケットボールボードにダンクする「儀式」を開始。その後、攻撃陣が貧打にあえぐと、試合前のクラブハウス内に各選手のバットをばらまき(ただし、イチローのバットは除く)、「バットに触るな」との注意書きを残しました。その心は、「試合前はゆっくり寝かせて、試合で起こせばいい」との考えからでした。投手陣が打ち込まれた際には、今度は守備を固める目的で、グラブをまき散らすなど、常に「験直し」を試みています。

 本拠地での試合前練習中、人気子供番組「リトル・アインシュタイン」のポップなテーマソングが大音量で流れるのも、ゴードンが球団関係者に直接依頼しているからです。その効果かどうかは不明ですが、一時は最大「8」まで膨らんだ借金を完済。2日には勝率5割に戻すなど、今のところチーム内の雰囲気が落ち込むような状況にはなっていません。

 ちなみに、通算138勝、158セーブの実績を残したトム・ゴードン(元レッドソックス、ヤンキースなど)を父に持つディーは、ドジャース時代、当時ルーキーリーグで内野守備コーチを務めていた山下大輔氏(現DeNA2軍監督)の「一番弟子」でした。「ヤマシタさ~んは、ゲンキですか」。山下氏が「験かつぎ」を指導したかは不明ですが、チームの勝利を切に願う、真剣で無邪気なディー・ゴードンの姿勢を、イチローもほほ笑ましい表情で見守っています。