<アスレチックス5-2マリナーズ>◇6日(日本時間7日)◇オークランドコロシアム

 【オークランド(米カリフォルニア州)=四竈衛、木崎英夫通信員】マリナーズのイチロー外野手(35)が、史上259人目となるメジャー通算2000安打を達成した。あと1本で迎えたアスレチックス戦で、1回の第1打席に右翼線を破る二塁打を放ち、大台に到達した。メジャー9年目では史上初、1402試合目は1900年以降で史上2番目のスピード記録となった。この日は4打数1安打で今季195安打とし、あと5本と迫った9年連続200安打のメジャー新記録が次のターゲットとなる。

 自然に沸き起こった歓声は、もはや敵味方を超越していた。1回表。右翼線を痛烈なライナーで破ったイチローが、二塁ベース上に到達すると、敵地オークランドコロシアムの観客は立ち上がって拍手を送った。電光掲示板には「通算2000安打」の表示。しばしプレーが中断したのを機に、イチローはゆっくりと全方向を見渡すと、控えめに右手でヘルメットを掲げた。

 イチロー

 この場所で今日安打を打って、観客の人がすごく祝福してくれたというのは、ちょっと感慨深いものがありましたね。

 01年4月。デビュー直後のイチローが初めて同地を訪れた際、大ブーイングで迎えられた。当時のマ軍が入札(ポスティング)制度で約14億円を投資した初の日本人野手に対し、敵地のファンは批判的で、興味本位の視線を浴びせた。守備位置では25セントコインや氷が投げ込まれ「身の危険を感じる」と漏らしたこともあった。だが、8年5カ月後のこの日、観客の視線は温かく、敬意に満ちるほど、イチローの存在感は確かなものに変わっていた。

 イチロー

 そのことを思い出したのでちょっと気持ち良かったですね。

 その間、重圧を制御する方法も体得した。第1打席。カウント0-1から147キロの内角速球を、一瞬の迷いもなく振り抜いた。

 イチロー

 今の僕は、そういう圧力でパフォーマンスが変わるということをまったく感じていない。少なくとも過去のもの。どうということもないですね。

 イチローがメジャーの門戸をたたいた01年当時、米国球界は本塁打全盛期だった。直前に、マグワイア(カージナルス)とソーサ(カブス)が華々しく年間最多本塁打争いを繰り広げ、パワー重視の傾向に拍車をかけた。多くの選手が筋肉の鎧(よろい)にあこがれ、その結果、球界全体にステロイド禍がまん延した。

 そんな時代に海を渡り、一石を投じたのが、体重76キロのイチローだった。細身でも、傑出したバット操作とスピードで次々に安打を量産し、パワー信奉者の既成概念を揺り動かした。本拠地と自宅にある専用トレーニング機器も、筋力増強用ではなく、関節の柔軟性を維持するためのもの。パワー偏重主義に逆行するかのように、イチローはしなやかな動きで米国ファンの心をつかんでいった。そして今や「スモール・ベースボール」の時代。かつては長打力不足や内野安打の多さを指摘する声もあったが、高い技術と9年間の業績に、異論を挟む声もほぼ皆無になった。

 イチロー

 偉大かどうかは人が決めること。偉大と言ってくれるならうれしいですけど、謹んでお受けします、という感じでもないですね。

 まずは、1つの節目を超えた。だが、満足感はない。視線の先は、9年連続200安打。将来の野球殿堂入りに大きく近づくメジャー初の記録は、敵地のみならず、全米中が祝福するに違いない。【四竈衛】