<マリナーズ4-1ブルージェイズ>◇7月30日(日本時間同31日)◇セーフコフィールド

 マリナーズ岩隈久志投手(31)がランディ・ジョンソンらの持つ球団の新人奪三振記録「12」を塗り替える力投で、メジャー先発初勝利を手にした。前日に実父の危篤を明かして臨んだマウンドで、ブルージェイズ相手にメジャー最長の8回を投げ4安打1失点。4月に中継ぎ登板で打ち込まれた因縁の相手に雪辱し、109球の“闘球”で病床の父に思いを届けた。

 どうしても勝ちたかった。いや、勝たなければならなかった。「もちろん、その思いはあります」。父得二さんにささげる感謝の気持ちが、最後まで背中を押し続けた。相手にとって不足もなかった。4月28日に中継ぎで1回4失点と打ち込まれたブルージェイズ打線。捕手のサインに何度も首を振る鋭い眼光が、これまでと違っていたのも当然だった。

 初回、1番デービスに食らった左越え本塁打が平常心を呼び戻した。「ホームランから始まったので、とにかく低めに丁寧にと思いながらリズムをつくっていこうと投げていた」。後続2人をフォークと直球で連続三振に仕留めると、その後も速球とキレのある変化球で三振の山を築いた。

 圧巻は4回先頭で4番エンカーナシオンから奪った見逃しの三振。「もちろん忘れてないです。やり返そうという気持ちもありました」。カウント1ボール2ストライクから投げ込んだのはこの日最速の93マイル(約150キロ)の外角低め直球だった。前回屈辱の満塁弾を浴びた相手はバットを片手にお手上げのポーズ。

 8回1死でローリーから奪った13個目の三振で、ランディ・ジョンソン、マーク・ラングストン、フレディ・ガルシア(現ヤンキース)が持っていたマ軍新人奪三振記録を更新。「もともと三振を取るピッチャーではないので。でもすごくうれしいですし、誇りに思いたいなと思います」と快記録を喜んだ。

 登板間隔の中4日を使い、日本滞在1日の帰国で病床の父を見舞った。得二さんは2年前から闘病生活を送り、岩隈によれば、余命は「3カ月くらい」。息子の呼び掛けに、父は目を開ける反応を示したという。「もう帰るつもりはない。自分の中ではひとつの区切りというか、切り替えができた」。後は「僕はここで頑張る姿を見せる」とメジャーのマウンドで力を出し切るだけだった。

 中継ぎからはい上がり、5試合目でついに先発初勝利を手にした。まどか夫人と2人の子供、そして友人らが見守る中で見せた109球。赤く充血した時差ぼけの目を潤ませた岩隈は、そのウイニングボールを父の枕元に届ける。【木崎英夫通信員】