118球の力投も、9奪三振の圧倒的な投球も、この男にとっては勝たなければ、意味がない。広島黒田博樹投手(40)が、無念のサヨナラ負けを喫した。日本球界復帰後で初の巨人戦登板。1-0で9回マウンドにも上がったが、待ち受けていたのは、サヨナラ負けという結末。最後の最後でひっくり返された今季3敗目に、責任感の強い男は無言を貫いた。

 バスへ向かう通路に、お立ち台に上がった喜びの声が響いた。数分前までそこに立つ権利を手にしていた黒田は、アイシングもせず通路を歩いていた。報道陣の問いかけにも答えない。こわばった表情のまま無言を貫いた。抑えきれぬ悔しさが足取りを速くした。

 8年ぶりの巨人戦で、日本球界復帰後、初完封勝利が目前だった。だが、わずか2球で地獄に突き落とされた。1-0の9回裏1死一、三塁から阿部にツーシームを右前にはじき返された。さらに一、三塁、亀井への初球は左犠飛となりサヨナラ負けとなった。

 巨人戦通算20勝のうち、04年から07年の4年間で13勝を挙げたGキラーは健在だった。6回まで1安打7奪三振。8回に打順が回った際、ベンチで畝投手コーチと話し合う姿があったが、そのまま打席へ。その時点で91球。交代の選択肢など脳裏になかった。1点差のまま、国内復帰後初めて9回のマウンドに向かった。だが、そのおとこ気は、最後の最後で暗転した。

 光明もある。試合前まで対左打者の被打率は3割1分4厘。対右打者の被打率(2割1分4厘)を1割も上回っていた。前回7回3失点した阪神戦の6安打は全て左打者だった。黒田自身「いろいろ対策をしなければいけない」と課題に挙げていた。その答えがスプリットだった。横の変化球で両サイドを突くと、効果的にスプリットを使った。

 緒方監督は「(黒田を)責められない」とかばった。畝投手コーチは「今日はスプリットが低めに決まっていた。球自体は問題ない」と今後への試金石となる投球に合格点を与えた。

 もちろん、黒田は敗戦の責任を背負った。広島は黒田不在の中、6年連続で巨人に負け越し。前日までに「昔からそうですけど、強いチーム。そういうチームに勝っていかないといけない」と意気込んでいた。だからこそ勝ちたかった。チームにも、黒田にも痛い敗戦。それでも前を向かなければいけない。広島復帰後の初完投で敗れた悔しさを糧にして。【前原淳】

 ▼黒田が国内では07年以来の完投を記録したが、敗戦投手になった。黒田が許したサヨナラ打は00年9月6日巨人戦(松井の2点本塁打)01年3月31日中日戦(種田の遊撃内野安打)02年5月31日巨人戦(清原の中前打)に次いで13年ぶり4度目。4度のうち3度を巨人戦で喫している。