西武菊池雄星投手(24)には動く150キロ台のストレートがある。ロッテ戦で7回1/3を2安打1失点に抑えて、昨季と並ぶ5勝目を挙げた。2回には今江から153キロの「まっスラ」で3球三振。狙った変化ではないが、今季から取り組むフォーム改造の過程で生まれた副産物も、大きな武器となっている。カード勝ち越しを呼び込む好投でチームを再び貯金10に乗せた。

 意図はしていなかった。だが意思が込められた生き物のように、菊池の直球がうねった。2回1死。今江を2球で追い込み、照準を内角低めのクロスファイアに定める。膝元へ糸を引くような直線の軌道から、急に足元へえぐるようなスライダー軌道に変化した。なすすべなく今江のバットが空を斬る。急な成長曲線を描く左腕は「まっスラです。たまたまですけど」と苦笑いした。表示はこの日最速の153キロ。本人が狙っていなくても、気まぐれで剛速球が動きだしたら打者はひとたまりもない。

 今江は衝撃を隠さなかった。「速い投手は指にかかりすぎて、まっスラすることがある。でも今日のは、どえらい球だった。普通に打っても当たらないので次の打席は指2本分、短く持った。最初の打席の3球目のイメージが強すぎた」。残像を相手主軸の脳裏に刻印した。

 動く剛速球の衝撃。前回登板の6月28日の日本ハム戦にも爪痕を残していた。女房役の炭谷の左手が腫れ上がった。「初回から手がパンパンだった。今まで、そういうことはなかった。球が動くからミットの芯を外して捕っちゃう。本人は狙っていないと思うけど」。赤く染まった手のひらが威力を物語る。

 ナチュラルな変化だが、正しい投球フォームを展開していなければ生まれない軌道だ。土肥投手コーチは「股関節を正しく使い、下半身主導で投げているから、指にかかってまっスラする球が出てくる」と分析する。左腕をテークバックの位置に引き上げる前にボールを持つ左手首が尻に隠れ、球の出どころも見えにくい。「隠れている時間も最近、長くなっている。映像を見返すと打者が我慢しきれなくて、先にピクっと始動していることがある」。18・44メートル間の主導権は菊池が握っていることを表す。

 最近はまともに打たれることが、ほとんどない。6月以降、5戦連続で7回以上を投げながら被安打は3本以下。菊池は「無駄な四球が多い。普通の投手より球数も多い。まぁ(多すぎから)多めな投手になってきましたが(笑い)」と成長の余白を感じつつ、課題を1つずつクリアしている実感がある。怪物左腕が脱皮を重ね続ける。【広重竜太郎】

 ▼西武菊池は7回1/3を投げ被安打2。今季の被打率を1割6分3厘(233打数38安打)に抑えている。菊池は規定投球回に到達していないが、両リーグの規定以上で被打率2割未満は大谷(日本ハム=1割5分3厘)だけ。6月以降5試合に限ると9分4厘(117打数11安打)と完璧だ。