ヤクルトが首位に浮上した。苦労人のサブマリン、山中浩史投手(29)が、巧みな投球術で7回無失点に抑え、阪神に快勝した。開幕から5戦5勝は、国鉄時代の金田正一氏が1958年(昭33)に達成して以来球団57年ぶり。入団2年目にソフトバンクからのトレードを味わった右腕の粘り強い投球が、終盤の大量得点を呼び込んだ。巨人を1厘差で上回り、7月29日以来の首位に返り咲いた。

 遅咲きのヒーローは、丁寧に言葉を並べた。ヤクルト山中は「記録は気にならなかったです。そんな(金田さんのような偉大な)人に肩を並べていいのかな。でも本当に野手のみなさんが打ってくれて中継ぎの人たちがいいピッチングをしてくれた」と謙遜した。

 ピンチで耐え続ける姿が、またも打線の奮起を呼び覚ました。息詰まる投手戦で自己最長の7回を投げ、終盤に大量援護を受けて無傷の5連勝。チームを首位に導く大仕事だった。

 最大のピンチは初回。2死満塁を背負ったが、「あれで試合に入って行けた」と、逆に目が覚めた。今成を内角低めスライダーで中飛に抑え、リズムに乗った。

 高津投手コーチ直伝の“間”が生きた。前回7月26日の中日戦で6失点と打ち込まれた。「自分の直球はせいぜい130キロ台。いかに遅く見せるかが一番のテーマ」と、テンポを変えるなど技を駆使。この日最速124キロ直球と、同じような球速のスライダーとシンカーを、打者との間合いを外しながら低めに集めた。6回無死二塁のピンチをしのぐと、直後に2点をプレゼントされた。

 1軍初昇格だった6月12日の西武戦から5戦全てで白星が付く。スタンドにはこの日も妻早希さんと長女花笑(かえ)ちゃんが観戦していた。山中は「本当に勝利の女神です」と笑うように、この5勝をすべて見届けてくれた。ソフトバンク時代は、27歳の1年目に開幕ローテ入りをつかむが、2年目途中にトレードを味わった。それでも「実績のない自分をとっていただいた球団に感謝して、意気に感じて、勝利に貢献したい」と前だけを向いた。

 両親にも勇姿を届けた。熊本・天草市の新和町(旧天草郡新和町)出身。遠くに住む両親に、少しでも自分の活躍する姿を見せたいという思いから有料放送の「スカパー」に加入し、実家にアンテナも設置。苦労してプロ入りまで後押ししてくれた両親に成長した姿を届けた。

 今季最多の108球を投げ、チームを首位に押し上げた。真中監督も「ランナーを出してから粘って7回まで投げてくれた」と感謝した。苦労人が充実の時を迎え、強いヤクルトをけん引している。【栗田尚樹】

 ▼山中がプロ入り最長の7回を投げて今季5勝目。ヤクルトで開幕から5連勝以上は9人11度目だが、山中は登板した5試合すべて白星。開幕から5戦5勝以上は国鉄時代の58年金田以来、チーム2人目だ。金田は開幕戦の4月5日巨人戦から同25日大洋戦まで9戦9勝したが、2、7、8勝目はリリーフ。初登板からオール先発で5戦5勝は球団史上初めてだ。ソフトバンク時代は通算18試合に登板して0勝2敗、先発では2戦2敗の山中だが、ヤクルトでは14試合に登板して5勝0敗、先発した5試合は全勝だ。

<山中浩史(やまなか・ひろふみ)アラカルト>

 ◆生まれ 1985年(昭60)9月9日、熊本県生まれ。

 ◆球歴 必由館高(熊本)2年でサイドスローから下手投げに転向。3年夏に甲子園に出場。九州東海大-ホンダ熊本。

 ◆ドラフト 12年6位でソフトバンク入団。既に27歳だった。

 ◆トレード プロ2年目の14年7月に新垣とともに、川島慶プラス日高との交換でヤクルトに。

 ◆初勝利 西武牧田とのアンダースロー対決を制し、今年6月12日に初勝利。

 ◆俺の塩 社会人時代から愛用する「力塩」をかばんに常備。練習中や試合中になめる夏バテ防止の秘密アイテム。

 ◆サイズ 175センチ、82キロ。右投げ右打ち。

 ◆家族 ドラフト直後に結婚した社会人時代の同僚早希夫人と1女。

 ◆推定年俸 1100万円。