ヤクルトが初めてクライマックスシリーズを突破し、14年ぶり7度目の日本シリーズ進出を決めた。1回に山田哲人内野手(23)の右前適時打で先制し、2回までに3点をリード。真中満監督(44)の小刻みな継投策もはまり、6回以降は5人のブルペン陣が無失点でつないだ。3連勝で今ステージ4勝1敗(アドバンテージの1勝を含む)とし、リーグ戦2位巨人の挑戦をはねつけた。2連覇を狙うソフトバンクとの日本シリーズ(24日開幕)もチャレンジャー精神で挑む。

 そっと眼鏡を外した。真中監督の視線の先には、歓喜の輪が広がっていた。選手らの手で、優勝時と同じ7回宙に舞った。コメントも同じ。「ファンのみなさん、おめでとうございます」とスタンドに投げ掛けた。01年に当時の若松監督がお立ち台で発言した名ゼリフを再現した。

 王手をかけた一戦。1点リードの6回から、5投手を起用して無失点でしのいだ継投策では「勝負勘」が光った。6回、2番手のロマンが長打と暴投で1死三塁のピンチを広げたところで動いた。左のアンダーソンに対し、左横手投げの久古を投入。「リードしている中で、ずるずるいくのが怖かった」。7回途中からは秋吉が単打と四球でピンチを招くと、すかさずオンドルセクをぶつけた。試合前は「相手に惑わされないことが大事。自分たちのスタイルを変えても何も変わらない。こまめな継投はしたくない」と話していたが、勝負の分かれ目と見るや、大胆に動いた。

 突き動かしたのは、チャレンジャー精神だった。第1戦を落とし、1勝1敗(アドバンテージ1勝含む)とされたが、帰路に就いた新人監督に不安や迷いはなかった。本棚に目を向けた。1冊の本が目に入った。長男丈君(法政高3年)から借りた、池井戸潤氏の「下町ロケット」だった。ロケット開発で中小企業が大企業に対し挑戦する内容。目の前の大きな壁も、挑戦しなければ打ち崩せない-。「俺たちは去年、一昨年と最下位だった。挑戦者の気持ちを忘れては駄目だ」と引き込まれた。「できない理由を探すな」を人生の教訓にする指揮官らしくチャレンジャー精神に徹して、強敵巨人を退けた。

 常勝軍団の次は、圧倒的な戦力を誇るソフトバンクに立ち向かう。交流戦で1勝2敗と負け越した相手にも、「シーズン90勝のチームでしょ。やっぱり強いチームを倒すことは楽しいからね。うちの今の状態でどれくらいやれるか試してみたい」とワクワクしている様子だった。01年以来、14年ぶりの日本一を信じている。ファンに強く誓った。「ソフトバンクは強いチームですが、うちの力を結集して日本一を目指して挑みたい」。真中監督の挑戦はまだ終わらない。【栗田尚樹】

 ▼ヤクルトが01年以来7度目の日本シリーズ出場を決めた。真中監督は就任1年目で、新人監督のシリーズ出場は今年の工藤監督(ソフトバンク)に次いで17人目。新人監督同士の対戦は04年の伊東監督(西武)対落合監督(中日)以来、11年ぶり4度目だ。現役時代の真中監督は1年目の93年を含め4度シリーズに出場してすべて日本一。通算50打数以上では歴代3位の打率3割6分5厘を記録している。一方、現役時代の工藤監督は1年目の82年(日本一)を含めた14度のシリーズ出場がタイ記録で、歴代4位の8勝をマーク。「シリーズ男対決」となった今年、選手と監督の両方で1年目に日本一となるのはどちらか。