仰天の“ビデオ判定逆転弾”だ。「プロ野球ドラフト会議 supported by リポビタンD」が22日、都内で行われ、阪神が東京6大学野球新記録の通算131安打を放った明大・高山俊外野手(4年)を1位指名した。ヤクルトと競合したが、くじを外したように思われた金本知憲新監督(47)が実は引き当てていたという珍事態が起こった。就任初仕事でドラマの主役となった。

 地獄から天国だった。明大・高山を巡るヤクルトとの一騎打ち。開封と同時に真中監督が雄たけびを上げ、ガッツポーズをくり出した。それを見た金本監督は開封するまでもなく苦笑いで肩を落とした。会場では真中監督のインタビューが始まっていた。金本監督は初仕事の“黒星”を明るく笑い飛ばしながら、スカウト陣の待つ円卓に戻った。

 だが、ここから異例の事態に発展する。連盟担当者が「確認のミスがありました」とアナウンス。よく見てみれば、金本監督の手にしていたくじの右半分には「交渉権確定」の印字があった。真中監督がくじの左半分にあるドラフトマークを見て当たりだと勘違いしてしまったという。

 「あれだけ真横で喜ばれたらねえ。見ても仕方ないだろうと、見なかったんですけど。まさにビデオ判定の逆転ホームランでしたね。連盟の方から言われて。それまで全然、気付かなかったです。本当は自分で開いて、見て、よし、と喜びたかったんですけど」

 新指揮官は笑いを交えた金本節で振り返った。高山は東京6大学野球の通算安打記録をつくった“完成品”と見られがちだったが、金本監督はあくまで将来性ある素材として見ていた。

 「今すぐ使えるとか、そういう判断ではなしに。将来的に3、4番を打てる可能性がある選手ということで選びました。今年、ヒットの記録ですか。ただ、最後はミートに走っているように見えたんですけども。どんどん振れる選手にしていきます。練習はきついですよ。しっかり体をつくってくるように。それをまず伝えます」

 安打製造機にとどまることなく、早くも将来のクリーンアップ候補として育て上げる決意を口にした。厳しく鍛えるという本人への予告も忘れなかった。

 ドラマは箱の中で始まっていた。金本新監督が左手を突っ込んだ。手前にあった封筒を1度はつかんだ。だが、少し考えた後、それを離し、奥にある方をつかみなおした。第六感が働いたのか…。過去の経験が頭をよぎったという。

 「今までさくっと、すぐに決めていいことがなかったので、あえて迷った。逆張りです(笑い)」

 競合を恐れず、素材重視で指名すると公言した前日、自らのクジ運を自虐的にこう話していた。

 「くじ運は弱い。まあ、当たらん。飛び賞なんかも必ず飛んでる(笑い)」

 だが、フタを空ければ、とてつもない強運ぶり。いや、経緯を見る限り、運というより自らの意志でつかみ取ったというべきだ。大勝負ほど強さを発揮する。アニキ、恐るべし-。就任初仕事で強烈なインパクトを与えた。【鈴木忠平】