Aクラスの使者だ。広島久本祐一投手(36)が12日、契約更改に臨み、来季の支配下選手契約を結んだ。昨年11月に左肘靱帯(じんたい)の再々建手術。今季は育成契約でリハビリに努めていた。シーズン終盤に実戦復帰を果たし、再び背番号65を着けることが決まった。プロ入りした02年から支配下選手としてはAクラスしか知らない左腕が帰ってきた。再起をかけるベテランが、広島投手陣の救世主となる。

 安堵(あんど)感でも達成感でもない。契約更改を終えた久本にあるのは自信だけ。再び訪れる表舞台を前に、高揚感を抑えられないようだった。

「レベルアップするつもりでやってきた。楽しみ。みんなと一緒に競争ができるのを楽しみにしている。勝っていく自信もある」

 1年前の11月14日、球団と育成選手契約を交わした。左肘靱帯(じんたい)の再々建手術を受けるためだった。長いリハビリを経て、8月8日のウエスタン・リーグ、オリックス戦で実戦復帰。計5試合に登板した。「試合に投げるたびに感覚が良くなり、球の強さが戻ってきた」。シーズン終了後も投球練習を継続。週に1度は由宇キャンプのシート打撃で実戦感覚を養っている。

 長いリハビリ期間中に自分自身を冷静に、あらためて見つめ直した。肉体的、精神的課題も見つかった。技術的には映像で自身の投球を確認し、チェンジアップの再習得を決断。抜くように投げる球種は肘への負担も懸念される。それでも縦の球種が不可欠と判断した。復帰後から握り方など試行錯誤を続け、使えるめどが立った。「投げるイメージができた。投球のバリエーションが増えると思う」。1軍に帰るのではなく、1軍で勝つ準備をしてきた。

 再び背番号65のユニホームに袖を通す。「チームに感謝です。1年待ってもらって本当にありがたい。期待を裏切らないようにしたい」。来年3月に37歳となる左腕を球団は待った。鈴木球団本部長は「とにかく1軍で来年貢献してもらいたい」と期待を寄せる。02年に中日入団後、昨季まで所属球団は13年連続Aクラス。育成契約の今季チームはBクラスも、支配下選手昇格で再び「Aクラス神話」復活だ。「ポジションは監督、コーチが決めることですが、自分は足りないところを埋めるだけ」。球団への感謝の思いは来季、投球で返す。【前原淳】

 ◆久本祐一(ひさもと・ゆういち)1979年(昭54)3月14日、大阪府生まれ。柏原(現東大阪大柏原)-亜大-河合楽器を経て01年ドラフト4巡目で中日に入団。03年に51試合を投げるなど主に中継ぎとして活躍。12年オフ戦力外となり、広島へ入団。移籍1年目の13年には先発も8試合こなすなど活躍。左肘故障のため、14年オフ育成契約となっていた。177センチ、83キロ。左投げ左打ち。