元ロッテの里崎智也氏(野球評論家)の「ウェブ特別評論」を掲載。5回目は「気持ちで相手を上回れば試合に勝てるか?」です。

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 野球、サッカーなどスポーツ全般で気になることがある。「相手より勝ちたい気持ちが上回ったから勝てた」「勝ちたい気持ちが相手より足りなかったから負けた」といったフレーズだ。

 個人的には、気持ちの部分で勝敗はつかないと思っている。気持ちの強弱の前に、勝ちたい気持ちを持って試合に臨むということが大前提だから「強弱」はないと思う。

 気持ちが強すぎるチームや選手はプレッシャーがかかりすぎるせいか、うまくいかないことが多いと思う。04年から2年間、通常のレギュラーシーズンでは1位の成績を収めたホークスは、プレーオフで敗れて日本シリーズ進出を2年連続で逃した。04年は西武に、05年はロッテにうっちゃられた。特に05年のプレーオフはホークス選手が勝ちたい気持ち度数でロッテ選手に引けを取ったとは思えない。

 “下克上のロッテ”と言われることもしばしば…。レギュラーシーズン3位でも、プレーオフでワンチャンスもらえることが、失うものがない分、思い切っていける。ダメもとでぶつかる相手に実力上位チームが普段の力を発揮できない限り勝つ保証はない。

 2006年の第1回WBC(ワールド・ベースボール・クラシック)で日本は世界一に輝いた。決勝戦前、ベンチ裏では日の丸の重圧からか顔色がすぐれない選手もいた。そんな中でも、個人的には負けたって次のチャンスに生かせばいいと思っていた。結果に対する不安はなかった。個人がやることやっても周りの出来不出来で負けることだってある。かと思えば、自分がミスしても周りの選手に助けてもらって勝つときもある。

 気持ちの強弱で話すこと自体、結果を見てから言っているんじゃないかと思う。勝ちたい気持ちが強かったから優勝したとか結果論を気持ちの部分で判断材料しても何の向上もない。どこかで聞いた言葉だが「結果には原因がある」のだ。

 技術的にも、戦略的にも。気持ちで語り始めたら努力もしないで逃げているような気がするのだが…。気持ちで語る前に、緻密に次の試合への戦略を立てたほうがいい。気持ちで勝負事を語ると何の反省もない。

 ビジネス書によく「PDCA」を回すとあるが、サラリーマンだけでなく野球選手を始めスポーツ選手全般に「PDCA」を大事にするのは当然。負けた際は、気持ちの強弱ではない。試合前にプランを立てる。成功した、成功しなかったを受けて、どこがうまくいかなかったのかを点検し、自分のミスを反省。次はその間違いを糧に新たな手法で実行。そして経験を積み上げることの繰り返しだ。結果で気持ちを語るような結果からの逆算はしない。結果を先に考えてしまうからプレッシャーがかかる。

 現役時代のプロ1年目。レギュラーに定着できなくても特に気合が入っていたわけではない。ファインプレーをしようとも思わなければ、特別なことをしようとも思わない。自分の果たすべき役割、できることをしっかりやる。それに尽きる。全力投球の姿勢で臨んで、けがなく無事に試合が終われば、それでいいのではないだろうか。

 勝負の勝ち負けは時の運。自分のやるべきことをキッチリやることしか勝利へ貢献できることはない。気持ちの強さだけで勝てるほど勝負は甘くない! (日刊スポーツ評論家)

 ◆里崎智也(さとざき・ともや)1976年(昭51)5月20日、徳島県生まれ。鳴門工(現鳴門渦潮)-帝京大を経て98年にロッテを逆指名しドラフト2位で入団。06年第1回WBCでは優勝した王ジャパンの正捕手として活躍。08年北京五輪出場。06、07年ベストナインとゴールデングラブ賞。オールスター出場7度。05、09年盗塁阻止率リーグ1位。2014年のシーズン限りで引退。実働15年で通算1089試合、3476打数890安打(打率2割5分6厘)、108本塁打、458打点。現役時代は175センチ、94キロ。右投げ右打ち。