泥だらけのゴールデンルーキーが仙台を揺らした。本拠地に詰めかけたファンが待ち望んだ瞬間は7回に訪れた。「一塁ランナー、ゴームズに代わり、オコエ」。三塁側ベンチから飛び出した楽天ドラフト1位オコエ瑠偉外野手(18)のプロ初戦は、大歓声に包まれての代走デビューだった。スタンドからは「走れ! 走れ! オコエ!」の大合唱。けん制球が2球続く。頭から滑り込み帰塁して、再び強気のリードを取った。「もらえるチャンスはごくわずか。チャンスを生かさなければ」。ユニホームを真っ黒に汚して、ひたすら次の塁をにらんだ。

 藤田の犠打で二塁へ滑り込み、岡島に対する暴投の間に三塁を踏んだ。直後、三塁コーチの真喜志内野守備走塁コーチから「(暴投が)もう1回あるぞ!」と声をかけられ、力強くうなずいた。「歓声は聞こえませんでした。…ということは緊張していたのかもしれませんね」。ただ必死だった。本塁生還はならず、打席の機会も訪れなかった。それでもベンチでは最後のチャンスに備えて、バットを構え相手投手のタイミングを計り続けた。

 1軍シーズンの真剣勝負でのみ味わえる空気、開幕戦独特の雰囲気。全てが最高の教材だった。「次はもっと長く試合に出たい。勉強したい。いつもそう思っています」。チームの勝利を喜んだ後は、日課のウエートと打撃練習のため室内練習場へと直行した。次に訪れるチャンスを生かすために。オコエの初シーズンが幕を開けた。【松本岳志】