御礼のマルチ安打だ。阪神高山俊外野手(23)が、6試合ぶり先発起用に応えた。原点の1番に入り、3回は泥臭い二塁内野安打から先制点につなげ、4回は犠飛。さらに6回は中前にクリーンヒットを飛ばした。27日発表の球宴ファン投票では、12球団ルーキーでただ1人選出された。最高の発奮材料に変え、グラウンドで感謝を表現した。

 悩めるルーキーに「らしさ」が戻った。4回1死三塁。高山はフルカウントからDeNA山口の外角低めフォークに反応した。体をくの字に曲げながら、目いっぱいバットを伸ばす。技ありの一打で、5月18日中日戦(甲子園)以来の1番起用に応えた。

 「久しぶりに使ってもらったので結果を出したい気持ちでした。あそこまでは良くなかったんですけど、追い込まれてからうまくバットに乗せることができました」

 貴重な3点目となる中犠飛。3回に二塁内野安打を放つと、6回には中前へ快打。10日の日本ハム戦以来、出場10試合ぶりの打点にマルチ安打だ。6月に入り打率は2割前半を推移。リーグ再開前には福岡・筑後の2軍本隊に合流し、掛布2軍監督からスタンス幅を狭くする打撃フォームを指導された。「今日で全部出せましたということではないですけど、少しずつ形になっているんじゃないかなと思います」。試行錯誤を続けているが、金本監督は起用を決意。「バッティングコーチの方からどうですかと。大賛成。だいぶ状態も良くなってきていたんで」。指揮官に成長の跡を見せつけた。

 成長しているのは技術だけではない。今年4月頭。東京6大学の春季リーグを控える明大善波監督の下に1通のメールが届いた。

 「リーグ戦、頑張ってください」

 送り主は高山だった。恩師は笑みを浮かべながら話す。「以前はわざわざそんなことを言ってくるやつじゃなかったのに。大人になってきたのかな」。プロの世界で活躍しても常々「ファンの方々のおかげです」と話すなど、周囲への気配りを忘れない。野球だけではなく、人として大切なものにも磨きをかけ続けている。

 27日には球宴ファン投票でセ・リーグの外野手部門3位、新人ではただ1人選ばれた。それでも浮かれていない。夢の舞台までの残り13試合。壁にぶつかり、もがき苦しみながら成長を続ける黄金ルーキーが、ここから反攻する。【梶本長之】