慎之助が巨人の球団史にまた1つ名を残した。巨人阿部慎之助捕手(37)が5回の同点打で通算1094打点目とし、原前監督を抜き、歴代通算打点で王、長嶋、川上に次ぐ単独4位に浮上した。7回にはこの日2安打目でつないで、決勝の押し出し四球をお膳立て。首位広島とは9ゲーム差のままだが、主砲の働きがチームを勢いづかせる。

 ひと振りで球場の雰囲気を変えた。1点を追う5回2死一、二塁。阿部はバルデスのスライダーを上からたたくように強振。球足の速い打球が右翼線に転がった。「高めに浮いてきたボールにうまく反応できた」。自身通算1094打点目となる同点適時二塁打で、敗戦ムードも一掃した。7回には2死一、二塁から二塁内野安打でつなぎ、決勝点となる村田の押し出し四球をアシストした。

 球団の歴代打点部門で単独4位。「知らなかった。やめたら気にするよ」と慎之助節で笑わせたが、プロ野球界で最も自分を見てくれていた1人である原前監督を超えた。14年オフ、一塁手転向を打診された。受け入れられたのは原前監督だったからでもある。「ほとんどのプロ野球人生を原監督(当時)の下でやってきた。キャッチャー阿部というのをオヤジと同じくらい見てきたということなんだよね」。それほどの存在がつむいだ偉大な数字を超えた。

 野球人としても円熟の域に入っている。9日西武戦前の打撃練習中。西武プリンスドームの一塁側ベンチ前から三塁側ベンチ前に手を振った。視線に気付いて頭を下げたのは、前日の試合で先発した高橋光だった。7回6得点で黒星をつけ、阿部も3安打。ポストシーズンで対戦する可能性のある敵に、阿部はジェスチャーを始めた。フォークの握りを見せてOKサインを出し、自分の胸元を指した。「いいフォークがあるんだからこねくり回さないでいいんだ。胸元を攻めろ」。

 約30メートル離れた2人が交わした無言のキャッチボール。高橋光は「伝わりました。まったく面識はないのですが本当にありがたいです」と金言を胸に抱いた。原前監督も野球界の未来を担う選手に声を掛け、背中を押していた。そんな先人たちの域にも近づいている。

 偉大な先輩の1人でもある高橋監督は、期待を込めて“辛口”だった。「それぐらいはまだまだやれる選手。期待以上とも思わない。でもいいところで打ってくれた」。慎之助が打てばチームが乗る。広島追走に、この男の打点量産は欠かせない。【浜本卓也】