日本ハム大谷翔平投手(22)が、人生初の日本一に輝いた。「SMBC 日本シリーズ2016」第6戦。出番はなかったものの、同点の8回2死満塁の場面では次打者サークルで準備すると、4番中田が決勝の押し出し四球を選ぶなど存在感は示した。先発した第1戦は負け投手も、2連敗で迎えた第3戦でサヨナラ打を放つなど打者として活躍。二刀流を貫き、チームを10年ぶり3度目の日本一へけん引した。

 夢見た“てっぺん”へ向かって、大谷が駆けた。マウンドにできた歓喜の渦へ体を投げ出した。「うれしいです。最後まで勝ち抜いて終われることなんてなかなか経験できないですし、それはよかったなと思います」。人生初めての日本一。念願の頂点に立った。

 存在が戦力になった。同点の8回2死満塁。大谷がネクストバッターズサークルに姿を見せると球場の空気が一変した。「(相手に)プレッシャーをかける意味でもいってくれと言われた」。代打の可能性は「ゼロだった」(栗山監督)が、相手バッテリーを、目で威圧した。打席の中田は、1度もバットを振ることなく、押し出し四球。決勝点を“アシスト”した。

 巨人に敗れた4年前の日本シリーズ。大谷はテレビの前にいた。メジャー挑戦を表明していながら、強行指名されたドラフト会議の直後。気持ちは複雑だったが、画面からは純粋に野球の楽しさが伝わってきた。導かれるように、その輪に加わった。

 二刀流への挑戦には批判もあった。だが、その逆風に栗山監督と二人三脚で立ち向かってきた。同監督から「基礎」と言われた3年を終え、迎えた4年目の今季、大谷は「日本一になる」と誓った。開幕から8試合で1勝と苦しんだ。打開したのは栗山監督の決断だった。「野球少年に戻すため」と、DH解除して投手で打席に立った。

 6月12日の阪神戦のことだ。「5番 投手」で出場した大谷は、初回から当時の最速記録163キロを連発。圧巻の3者連続三振でベンチに戻り、打席の準備を始めた。大谷ならではの姿を見て、栗山監督は周囲に悟られないように帽子を深くかぶり直した。涙が止まらなかった。「オレたちがやってきたことは間違いじゃなかった」。殻を破り、突き抜けたと感じた。これが転機となった。以降のペナントレースで、大谷が負けることは1度もなかった。

 約束を守った。広島の夜空に向かって、栗山監督の体を8度、押し上げた。第1戦に敗れたことも「今後に生きてくれればいいです」。投打に突っ走った4年間。いまは少しだけ立ち止まり、ゆっくりと頂上からの景色を楽しめばいい。【本間翼】