2週間ほど前、韓国・ソウルにいた。いてつく寒空の夜、人々が光化門広場で「朴槿恵退陣」と書かれた文字の上にろうそくを置いていく。「即刻退陣」とプラカードを掲げて、叫ぶ人もいる。機動隊が出動し、警察の車が取り囲む。これは、毎週土曜日の光景だ。

 親友の国政介入疑惑で揺れる朴槿恵大統領が辞意を表明してから、もうすぐ1カ月だ。日本なら、ここまでの騒ぎにならないが、韓国の人はなぜ、いまも怒っているのか。ソウルの知人は「まだ退陣しないから韓国人は腹が立っています。ウソばかりつく」と憤る。退陣は4月の予定。往生際が悪く、出処進退の潔さがない。図らずもリーダーのあるべき姿が見えてきた。

 その点では、阪神を率いる金本知憲監督の言動は明快だろう。今オフはオリックスからFA宣言した糸井嘉男を獲得。「若手を育てないのか」という声も挙がったが、筋を通した補強策だろう。昨年11月初旬、ある外野手が補強の候補に入ったが、指揮官自ら、江越や伊藤隼、中谷ら、若手の外野陣を集めて言った。

 「一切、ノータッチだから。お前らを使いたい、ということだから」

 勝負の厳しさに徹する人だ。若手へのエールの真意を「チャンスを与える。まずは最初はお前らが(レギュラーを)とりにこいよ。とれなかったら、お前ら使えないということだから」とも説明した。昨季、レギュラー級の活躍を見せた若手は新人の高山だけだった。温情を差し挟まず、積極的に糸井獲得へと動いた。

 配慮はするが、遠慮はしない人だ。昨季、不振を極めた鳥谷の起用法もその1つだろう。打率2割3分台に低迷しても復調を待ち、ギリギリのタイミングまで連続フルイニング出場も続行させた。遊撃の定位置を奪った22歳の北條と鳥谷のレギュラー争いは開幕まで最大の見どころになる。金本監督は「正直、いまの流れは北條で来ている。圧倒的な力を見せない限り、同じぐらいだったら若いのを行くという方に向いている」とまで言い切っている。

 ある球団関係者は「シンプルなこと。鳥谷が打てばいい」と説明する。圧倒的な打力を示せば、北條よりも力量は上だとする向きも多い。金本阪神の2年目。旗幟(きし)鮮明なリーダーが勝つためにどのように決断し、どんな采配を振るのか、注目していきたい。

 ◆酒井俊作(さかい・しゅんさく)1979年(昭54)、鹿児島県生まれの京都市育ち。早大大学院から03年に入社し、阪神担当で2度の優勝を見届ける。広島担当3年間をへて再び虎番へ。昨年11月から遊軍。今年でプロ野球取材15年目に入る。趣味は韓流ドラマ、温泉巡り。

 ◆ツイッターのアカウントは@shunsakai89