西武辻発彦監督(58)が最愛の実父との別れを乗り越え、チームをリーグ優勝と日本一に導く。2日、宮崎・南郷でのキャンプ2日目の冒頭、前夜に父廣利さんが86歳で亡くなったことを選手やスタッフに報告した。「辻西武」の船出を優先し、最期をみとりに帰省しなかっただけでなく、今後も通夜や告別式に出席しない。後ろ髪引かれる思いを振り切り、3年連続Bクラスと不振にあえぐチームの立て直しに専念する。

 冬晴れの南郷中央公園野球場。午前10時、練習開始前の選手たちが右翼付近に集められた。輪の中心の辻監督は「昨夜、おやじが亡くなりました」と報告。「みんなもお父さん、お母さんのおかげで今がある。それを忘れずに頑張ってほしい」と付け加えた。

 覚悟は固めていた。危篤状態と聞き、1月30日には佐賀の実家へ飛び、廣利さんと対面した。息子の到着に反応するも、すでに意思疎通も難しい状態。持って数日とも知らされたが、親戚一同と話し合い、キャンプを優先することを決めた。家族は「お父さんなら『おらんでよか』と言うはず」と背中を押してくれた。

 野球選手に導いてくれたのが父だった。廣利さんは西武の前身、西鉄をこよなく愛し、発彦少年を自家用車で平和台球場に連れて行った。それで野球にのめり込んだ辻監督は、やがて西武に入団。さらに今回、西武の監督になった。

 今の仕事を一番喜んでくれているのは父。だからこそ「もう2度と会えない」と分かりながらも、廣利さんの元を離れた。1月31日、辻監督は佐賀空港から羽田空港に戻り、そこからチーム便で宮崎へ飛んだ。佐賀から直接宮崎に行った方が、はるかに近い。それでも選手、スタッフとともにあることにこだわった。

 キャンプ初日の1日。そんな事情などおくびにも出さず、南郷中央公園内の各所で行われる練習を、精力的に回った。日本人投手全員がブルペン入りした様子を目の当たりにすると「意欲が感じられる。うれしいね」と笑顔もみせていた。

 主将の浅村は「まったくそんなそぶりを見せなかった。本当にすごい方だと思う」と遠い目をした。辻監督は今後もチームを離れず、最後の別れになる通夜、告別式にも出席しない。私情を捨て、何としてもチームを立て直す-。そんな決意に触れ、エース菊池は「監督を胴上げしたい。あらためて、強くそう思いました」と表情を引き締めた。【塩畑大輔】