侍ジャパンの4番としてWBCに出場し、迎えた開幕。昨季の本塁打、打点の打撃2冠として期待を受け、不発が続いた。メディアやOBも含め、異変を指摘する多くの声。しかし心は揺るがなかった。「僕は趣旨がずれているものは受け入れない。だけど、そうでなければ受け入れる。でも、基本的には自分の感覚ですよ。自分の体のことは自分にしか分かりませんからね」。慌てる必要も、そんな瞬間もなかった。

 開幕から約1カ月。体の変化には気づいていた。「重心の位置が分からなくなった」。重心を意識して体重移動しながらバットを振る一連の動作ができなくなっていた。グラウンドを離れても体の重心を意識した。「ずれていればすぐに分かる。自分の体のことですから」。常に自分の体と相談し、過ごした。不発が続いた4月中旬のヤクルト戦以降、ひそかにバットを昨季のモデルに戻した。後退を嫌い前進だけに強いこだわりを持つ男が、ほんの少し後ろを振り返った。でも進化は止めない。

 筒香が使用するグラブメーカー「アイピーセレクト社」と、プロ野球選手としては異例となる「練習バット契約」を結んだ。刀を意味する「エスパーダ」という名の重さ1200グラムの“こん棒バット”は昨オフから導入したもの。昨季から使っている65センチのショートバットとの2本は、バランスを重視する筒香のそばに、常にあった。この試合も次打者席でこん棒バットを何度も振り、初アーチを放った。「ずっと使っているものですから」とパートナー契約が決まり、サポートを受け量産態勢に入る。

 「勝つためにやっている。きた球を打つだけ」。喜びの顔は、勝ったときにとっておく。【栗田成芳】