流血がなんや。この時期の首位陥落がなんや。「超人」が、再び虎を首位に返り咲かせてくれるはずだ。阪神糸井嘉男外野手(35)が3回の守備で飛球を追って交錯し、流血。プレー続行が危ぶまれたが、最後まで勝利を追い続けた。1回には二盗を決め、プロ野球45人目の通算250盗塁をマーク。チームは敗れて首位の座から転落した悔しい1日だったが、明日30日からは交流戦。昨季打率3割6厘&53盗塁でのパ・リーグ盗塁王に輝いた男が、上昇気流に乗せてくれるはずや。
日曜日の甲子園が悲鳴に包まれた。1点をリードして迎えた3回2死二、三塁。DeNAロペスが放った打球が青空に舞い上がった。ボールを見上げて背走する遊撃手大和。そこに猛スピードの中堅手糸井が突っ込んだ。大和のグラブからこぼれた白球は転々…。まさかの交錯(記録は適時二塁打)で逆転を許してしまった。球場が騒然となったのはその直後だ。座り込んだ糸井が立ち上がれない。中村外野守備走塁コーチとトレーナーが駆け寄る。頭を上げ、苦痛にゆがんだその顔の右目付近からは、真っ赤な鮮血が吹き出しているように見てとれた。
タオルで患部を押さえつけた糸井は、自ら歩を進めてベンチ裏へ治療に向かった。24日の巨人戦では鳥谷が顔面に死球を受けて鼻骨を骨折したばかり。主力2選手が短期間で、ショッキングな流血に、スタンドは静まり返った。衝撃のアクシデントから約8分後。背番号7は平然とセンターの守備位置へ向かった。
まさに超人だ。甲子園で観戦していた麻山貴之さん(33)は祈っていたという。阪神梅田駅近くで、その場面を振り返った。「最近故障者が多いので、糸井選手まで失うわけにはいかないと思った。頼むから帰ってきて、と」。上本真奈美さん(29)も「何分でも待つから帰ってきて、と思ってました」。大事にいたらず、虎党も安堵(あんど)した瞬間だった。
糸井はアクシデントの数十分前には節目の記録に到達していた。初回、四球で出塁すると、二盗に成功。史上45人目となるプロ通算250盗塁。35歳でも衰えない球界屈指の脚力。万雷の拍手が注がれる二塁ベース付近で花束を掲げた。
疲労に加え、精神的な疲れも重なる時期。ところが金本監督は「休みたがらんもん」と笑い飛ばす。キャンプ前に右膝を故障したが、現在は膝ではなく股関節を使った身体の使い方を意識。個別トレーニングで強化を続け、全試合スタメン出場。この日も右目上を止血した状態で試合に最後まで出場した。敗戦後は責任を背負うように言葉を発することはなかったが、グラウンドで強い意志を示した。
明日30日のロッテ戦から交流戦が始まる。2位陥落となった虎にとって巻き返しのキーマンは、パ・リーグを熟知したこの男だ。【桝井聡】



