<オープン戦:巨人3-2オリックス>◇3日◇宇部

 ラッキーボーイがジャイアンツドリームをつかもうとしている。育成選手の隠善智也外野手(23)が、オリックスとのオープン戦(宇部)に「2番左翼」で初のスタメン出場。5回に左翼線へ勝ち越し適時二塁打を放ち、チームにオープン戦初白星を呼び込んだ。打率は5割。小柄ながらスイングが異常に速く、堅実な守備、何よりハングリーだ。このままいけばシーズン開幕前の支配下選手登録が決定的で、開幕1軍入りだって夢じゃない。

 スコアボードの後ろに、高橋由、ラミレス。雲の上の存在、なんかじゃない。巨人のスタメンにふさわしい働きを隠善はした。

 5回の第3打席。オリックス岸田の外角直球を見逃さない。キャンプを視察した長嶋終身名誉監督をして「スイングスピードが速い」とうならせる打撃。174センチと小柄だが、打球が速く失速などしない。左翼線を破る勝ち越し二塁打には「1打、1球に集中している」気持ちがぎっしり詰まっていた。

 第4打席にも内容があった。無死二塁。2球目に送りバントを決めた。内角の厳しいボールを一塁側に転がした。「バントも集中の結果です。課題でしたから」。地味だが貴重な勝ち越しのおぜん立て。支配下昇格にリーチをかけた。

 2度もチャンスを手放すつもりはない。昨秋キャンプ。原監督に「紅白戦や練習試合で2割5分ぐらい打ってみろ。そうしたら支配下選手にするぞ」と言葉をもらったが、かなわなかった。だが隠善は「あの悔しさがあるから今がある。強い意志を持っています」と逆に原監督に感謝する。

 1月は野間口らとともに茨城県の山中にこもった。年俸240万円。10万円以上かかる費用は簡単ではなかったが、自腹を切った。「野間口さんに声をかけてもらい、集中して練習できる。何かをつかまないと帰れません。開幕1軍に入ることが目標。気を緩めるようなことは絶対にしません」。23歳の青年はたくましさを増し、競争のど真ん中に割って入った。

 この日3安打を放ち絶好調の亀井は同じ左打ちの外野手だ。若手に相乗効果を与え、層の分厚い外野レギュラー陣を安穏とはさせない。日本一奪回を目指す原巨人が、チーム力を高めるため最も大切なハングリー意識。躍動する背番号「107」の存在が、その原動力になっている。

 連日隠善の評を求められる原監督は「異議なし!」とシンプルな言葉で絶賛。「非常にいいと思います」と、若手でつかんだ今季初白星に手ごたえを得た。隠善は「結果に浮かれず、何とかものにしたい」と笑顔なくバスに乗った。4日の広島戦は“凱旋(がいせん)試合”。成長した姿を披露するため、何より目を覚まさせてくれた指揮官のため、歩みを止めるわけにはいかない。【宮下敬至】