<日本ハム3-2オリックス>◇24日◇札幌ドーム

 したたる水をぬぐうことも、小田は帽子をかぶり直すことも忘れていた。ヒーローは、泥だらけのヘルメットをかぶったままお立ち台に上がった。「覚えてません。入ったかどうかわからなかった」。延長10回、オリックス守護神加藤の143キロを右中間へ運んだ。劇的な一撃は、チームに勝利をもたらした。

 苦しみを乗り越えたから、この日があった。06年オフ、慢性的な炎症に悩まされていた左太もも裏を手術した。04年に続いて2度目のメスだった。「足が弱くなった。昔のフォームを追い求めたのも悪かった」。思うように動かない下半身にジレンマと悔しさを感じた。「手術してから…苦しかった」。こみ上げた涙はほおを伝った。2軍キャンプではバットを寝かせる新フォームに、大村打撃コーチと取り組んだ。打撃練習が終わるとブルペンに出向き、投手心理を聞いてまわることもあった。「スタッフやみんなにいい恩返しができた」と声を震わせた。

 1週間前に首を寝違えた痛みは続いていた。2軍落ちも検討された。「打撃が捨てがたい」と残した梨田監督は「まさかホームランとは…。信じられない」と驚いた。指揮官もビックリの苦労人が、敗戦の危機を救った。【本間翼】