<巨人9-3中日>◇11日◇東京ドーム

 巨人に育成選手上がりのニューヒーローが誕生した。中日9回戦(東京ドーム)でプロ初スタメンに抜てきされた隠善(いんぜん)智也外野手(23)が3安打3打点1盗塁と大活躍。3月21日に支配下選手登録され、開幕1軍入りするなどサクセスストーリーを実現させた。亀井、脇谷、坂本ら若手に刺激されたチームは9-3と快勝。借金も1となり、中日、阪神の「2強」相手に同一カードで初めて勝ち越し、3位に再浮上した。

 興奮を抑えきれなかった。目は赤らみ、心なしか声も震えていた。隠善はお立ち台に立つと腹の底から叫んだ。「いやーもう最高です!」。頭は真っ白だ。今ある気持ちを大観衆に向かって吐き出した。沸き上がるスタンドを見渡す。「1軍でやっているんだと実感できました」。喜びが体全体を包んでいた。「1、2、3、最高でーす」と、Gファンを巻き込みお立ち台を締めた。カラオケで盛り上げ役を担う男は、人生初のお立ち台でも派手なパフォーマンスを披露した。

 スタメンは篠塚、村田両打撃コーチから打撃練習前に告げられた。篠塚コーチが「(中田の)速球にある程度ついていける」と言うように、スイングスピードの速さを買われた。「心臓はドキドキでしたけど、あそこに立つと集中できた。びびってやっていても仕方ない。思い切ってやろう」と、気負いなく強い気持ちでグラウンドに立った。

 勢いに乗った。2打席目に右前打で出塁し、プロ初盗塁を決めてホームに生還。3、4打席目には連続適時打で3打点を挙げた。3打席目は努力が実を結んだ打席だ。ジャイアンツ球場で打撃練習に励んでいるとき、自らの弱点に気がついた。「変化球をこねることがある」という反省から、内角をさばく練習に打ち込んだ。3打席目に打ったボールは、内角高めのスライダー。推定年俸480万円の男が、努力で弱点を克服してみせた。

 06年ドラフトの育成枠で入団した。「プロでやりたい思いが強かった」。社会人野球への道もあったが、自身の夢を選択した。父哲博さんが「自分で決めたことは最後まで貫く子です」と話す通り、芯の強さを持っている。プロに入っても変わらない。「絶対支配下選手になって1軍のグラウンドに立つ」。その思いから、アンダーシャツやグラブなどには、育成時代の背番号「107」は入れなかった。そして今、アンダーシャツには「99」が入っている。

 周囲も後押しした。道具を提供するゼット社の担当者は、向上心に心を打たれ、育成選手ながら重さ、長さなどが違う6種類のバットを用意した。「いろいろな方に支えられて今がある」。感謝の気持ちを忘れない男は「両親には寮に帰ってゆっくり伝えます。(母の日に)いいプレゼントになりましたね」と笑みをはじけさせた。原監督は「練習も熱心だし、調子も良かった。期待に応えてくれたね。水を得た魚のごとく、暴れてくれている。自分が若いときの現役時代を思い出したよ」。巨人の4番を張った指揮官も心を動かされた。巻き返しをもくろむチームに、頼もしい若手がまた1人出てきた。【久保賢吾】