<阪神4-1中日>◇3日◇甲子園

 最愛の家族に捧げるマウンドだった。試合開始前。阪神金村暁は黒マジックを手に取った。帽子のひさしの裏に、昨年12月27日に誕生した双子の男の子の名前とともに力強く『感謝』としたためた。新天地での今季初登板初先発。ヒリヒリするような緊張感に包まれながらも、日本ハム時代からの「儀式」は欠かさない。

 3月上旬に左太もも裏を痛め、ようやく巡ってきた自身の“開幕戦”だ。「自分が投げる初戦の日に、思いつく、大切なことを書きます。初戦の高ぶった気持ちをずっと持ち続けるための験(げん)担ぎです」。家族とともに戦う。中日打線に真っ向勝負を挑んだ。

 3回に1失点するが中盤以降は独壇場だった。4回、先頭ウッズに得意球フォークを連投。低めに集め、空を切らせた。6回の再戦でも同じように沈む球で空振り三振を奪う。圧巻の「ウッズ斬り」で通算88勝の実力を披露した。

 金村暁

 緊張しました。全体的に言えば、投げられた。(ウッズは)走者がいなくても、1発が一番いけないところ。とにかく低めを意識して投げました。

 タテジマデビュー戦は6回1失点。移籍初勝利こそ逃したが、堂々たる内容だった。序盤は直球とスライダーで組み立て、中盤からフォークを多投した。他にもパームなど多彩な球種があり、様々な組み合わせで打者を幻惑できる投手だ。

 開幕から2軍暮らしが長く続いた。支えになったのは家族の存在だ。東京から呼び寄せる前、愛息2人の写真をクリアファイルに挟み、財布に入れて持ち歩いていた。「毎日、テレビ電話しているよ。この子たちのためにも頑張らないとね」。パパになって初マウンドで、結果を残した。

 金村の好投は、チームにとって朗報だ。過去にも日本シリーズを含めて、中日戦で3戦3勝。防御率0・45の好成績を残していた。額面通りの結果を出し、岡田監督も「実績も経験もある投手。勝ち星はつかなかったけど、合格の投球。いつでも、どの球でもストライクを取れる」と高く評価した。

 リーグ戦の「切り札」として、巻き返す気持ちに満ちあふれる。「今まで期待を裏切ってきた。やっとチームの一員になれたかな。どんどんベンチの信頼を得られるよう貢献して、1イニングでも多く投げたい」。次回で狙う白星こそが、本当のスタートになる。【酒井俊作】