<楽天1-0ソフトバンク>◇7日◇Kスタ宮城

 ソフトバンク王貞治監督(68)がサヨナラでユニホームを脱いだ。9月23日に今季限りでの辞任を発表して迎えた最終戦は、延長12回に0-1で楽天にサヨナラ負け。最下位が決まった。選手として世界一の本塁打王、監督とし2度の日本一、ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)では日本を初代王者に導いたヒーローが、ついにグラウンドに別れを告げた。プロ野球人生50年、ON時代の終わりでもあった。今後はチーム、球界を側面からサポートする。

 涙雨がKスタ宮城に降り続いた。楽天との最下位決定戦。ソフトバンク王監督のラストゲームは、4時間を超える熱闘の末、延長12回サヨナラ負け。12年ぶりの最下位が決まった。午後10時7分だった。「勝負師として最後に白星で飾れなかったのは残念。最後の最後まで、野球好きな僕にふさわしい、12回もやって、そういう点では良かった」。試合後は楽天野村監督に花束を渡され、場内のファンに両手を振った。

 涙とは無縁。「涙雨なんて僕には似合わないよ」と笑顔を見せたが、雨にぬれながら深々と頭を下げてグラウンドに別れを告げた。

 選手として世界記録の868本塁打を放ち、監督として両リーグ制覇、日本一、そして06年にはWBCで世界一も達成した。長嶋茂雄元巨人監督とともにONとしてプロ野球界を引っ張ってきた。プロ野球人生50年。常に看板を背負い、栄冠を手にするたびに、重さも増した。

 世界記録の756本塁打を放った77年、国民栄誉賞第1号を贈られた。北京五輪の水泳男子平泳ぎ金メダリスト、北島康介に国民栄誉賞の話題が挙がった際、王監督は言った。「君たちも国民栄誉賞を1日でも体験してみればいいんだよ。そうすれば、こんなに簡単に扱わないだろう」。

 8月14日には食物を腹部に詰まらせ、ロッテ戦を休養した。その翌日の試合後、王監督は何事もなかったように振る舞ったが、実は試合中のベンチ内は騒然とした。腹部が詰まり、激痛に襲われた。横たわる王監督をトレーナーが懸命の介抱に努め、球団関係者は連盟と連絡を取り、監督の途中退場を打診したほど。それでも体調が回復した試合終盤にはガッツポーズも見せ、周囲を安心させた。野球を愛し、ユニホームと生きた。今後は球団のGM的立場でチームを側面から支援する。第2回WBCのアドバイザー就任も要請されている。

 最後の采配を終えた後、仙台市内の宿舎ホテル会議場に選手とコーチ、裏方らを集め、最後のミーティングを開いた。「14年間お世話になった。厳しくしたりもしたが、君たちにレベルの高い選手になってほしいから。プライドを高く持った選手を目指してほしい」と言った。試合終了から41分後の午後10時48分、ホテルの自室に戻り、1人静かにユニホームを脱いだ。【中村泰三】