<阪神5-0広島>◇20日◇甲子園

 金本魂が乗り移った。連続フルイニング出場の途切れた阪神金本知憲外野手(42)は本拠地甲子園に戻っての広島戦も先発を外れて代打出場。ベンチの本家に大活躍を見せつけたのは代役左翼で先発した狩野恵輔捕手(27)だ。打撃を生かすため外野兼任で昇格して即1発。4回に1号3ランをセンターに放り込んだ。チームはこれで03年以来の10試合連続アーチ。金本ショックを力に変え、阪神がパワフルに連勝だ。

 代役が大役を務めあげた。ダイヤモンドを1周すると、チームメートの手荒い歓迎が待っていた。その中には、笑顔の金本がいた。「それが本当にうれしかったです」。重責を背負った狩野には、最高のご褒美だった。

 4回、1点を先制しなおも2死一、二塁。マウンド上には、昨季12打数1安打に抑え込まれた斉藤が立っていた。「去年打っていなかったので。今日は思い切って振っていこうと思いました」。122キロど真ん中のチェンジアップを振り抜いた。前進守備の中堅赤松はターンしただけで、追いかけるのをあきらめた。スコアボードの数字は「1」から「4」に変わった。今季初安打が1号、そして外野手狩野としても初アーチとなる3ランだ。鉄人金本のリタイアという緊急事態で巡ってきた「8番左翼」の今季初スタメン。ほぼ初体験の外野手、そしてチームの顔の代役という身もだえするような舞台で、文句のない答えを出した。

 直後の左翼守備につく際「狩野コール」を全身で浴びた。「もう、涙が出そうだった」とこみ上げるものをこらえようと、照れ隠しで定位置に着く前に帽子を取って歓声にこたえた。

 狩野

 覚悟を決めてレフトの守備に臨みました。ジムも一緒でいろいろ教えてもらった。迷惑を掛けないように、名前を汚さないようにと思っていました。

 7年以上、金本が守り続けた聖地の左翼。代役に指名されたのは、1軍に再昇格したばかりの狩野だった。狩野も金本が通う広島市内のジム「アスリート」の門下生だ。トレーニングで歯を食いしばる金本の鬼の形相を近くで見て来た。それだけに、背負うものの大きさを感じていた。「去年の開幕に比べれば」と扇の要として開幕スタメンを任された昨季を思い出した。自分に落ち着くように言い聞かせると、自然と独り言が増えた。

 緊張を試すように、新参者を目がけて打球は容赦なく襲ってきた。捕手の経験を生かして配球を考えながら守備位置を変えていた。安打6本、飛球4本。計10本の打球を、初々しい動きながらミスなく裁いた。

 くしくも3年前の07年4月20日にプロで初めての脚光を浴びた。巨人戦(甲子園)でプロ初安打がサヨナラ打になった記念日。「印象の一打ですからなかなか忘れられない日です」。プロ10年目で初めて外野に回り、また本拠地でスポットライトに照らされた。金本魂を宿した“新戦力”がいきなり大暴れした。【鎌田真一郎】

 [2010年4月21日11時17分

 紙面から]ソーシャルブックマーク